欧米型の証明医療を実践されている
『リー湘南クリニック』李漢栄(医学博士)さんのブログ、
『院長ブログ・異端医師の独り言』より、転載させて貰います。科学が好きだと云うリーさんが、淡々と綴るこのブログは第一級の資料で、欧米型証明医療の真髄が垣間見られます。
貼り付け開始。
2009年05月17日 ★アメリカの接待事情 2年上の Dr. Erturkは、ロチェスター大学で泌尿器科・専門医の 4年間の研修を終えると、2年間他医学部に勤務し、1987年僕と同時に助教授になった。
医学部の基本給は僕と同じ、年俸 4万数千ドルとフリンジ・ベネフィット*と記憶している。Erturkは他に臨床費が入る(推定10万ドル)。
Erturkに夕食を招待された。4ベッドルームの豪邸、息子さんたちが庭で野球をするそうだ、極めつけは「おもちゃを買った」とガレージに案内されたら、BMWが。そう、かくもアメリカの専門医達は高級取りで、薬屋のちんけな接待なんか必要がないのです。

研究員時代(1985~1987年)、同級生の Garyが月に一回くらい、タダのお昼に誘ってくれた。薬屋の営業マン(MR)が薬の説明に来院し、サンドイッチとかピザを持ってくる。
日本の MRと違うのは、ペコペコしない、研修医と対等の立場。初対面時、「Hey Doc」と肩を叩かれたのには驚いた。
Cockettの外来を手伝っている時、患者から手作りの木でこさえた敷物(百円ショップで売っているようなやつ)をもらって、歓喜で顔面しわくちゃ、異常に喜んでいた。そう、アメリカでは賄賂まがいを貰う習慣がないのです。
アメリカで、泌尿器科専門医達の収入源は、検査や手術。保険会社が支払い高の上限を設定しているから、薬は極力安いものを極力短期間使用する。一方で、収入源である手術をやめる訳にはいかない。
*医療保険に加入とか、学会出張費水増し、かつ家族同伴無料とか、要は税金がかからない手当のこと。
リー湘南クリニック (2008年4月の記事、校正)
2009年03月19日 ☆★★科学者として最高の瞬間 帰国後、1991年スイスの田舎町で「血管新生」に関する小さなシンポジウムがあった。ちなみに、シンポジウム(Synposium「シンポージィウム」と発音)とは「飲み食いしながら討論する」ギリシャ語が語源らしい、夕方からはワインが振舞われた。
僕が発表するセッションのチェアマン(司会者)は、私がもっとも尊敬する科学者の一人 J. Folkmanで、冒頭「質疑応答の時間は決めないで、討論しよう」と提案した。普通、各演者が持ち時間内で口演し、質問を受けるが、時間は「5分」とか決められていて、十分な討論ができない。演者は 10数人と記憶している。当時は、血管新生(angiogenesis)と「その阻害」に関し、世界中で研究が始まった黎明期である。
「悪性度が高い癌ほど血管新生能力が高い」と信じられていたが、私の研究結果は「膀胱がんの悪性度と血管新生能力の多寡は相関しない」というものだった。質疑応答で、私はそれこそ袋叩きにあい、全員が私の研究結果に異を唱えた。助け舟を出してくれたのは、Folkmanだった。「この青年は、私達より先にいるのだよ」とコメントした。科学に対し、真摯で謙虚な姿勢に強く胸をうたれた。(2006年12月の記事、校正)
☆★Jainからの申し出 シンポジウムの夕食会で、Folkmanの右腕 Jainから「ハーバードに来ないか」と誘われた。Jainは新進気鋭の工学博士で「なぜ固形がんに抗癌剤が効かないか」を工学論的に説明し、その打開策として血管新生の阻害に注目していた。
非常に名誉ある申し出だったが、「天才 Folkmanに比べ、自分のちっぽけさを自覚していた」のでお断りする方向でお話をすすめた。彼の執拗な勧誘攻撃に、自分の年齢を挙げたが、Jainが「それは、理由にならないよ、僕は君より 6歳上」と退路を断たれ、一瞬言葉を失ったが、丁寧にお断りしました。
2005年、Science誌(超一流の科学雑誌)に Jainが記した総説「抗血管新生療法における新しい概念*」が掲載された。「抗血管新生薬は、不規則な腫瘍内血管を正常化するので、抗癌剤が効きやすくなる」という内容。合点がいかなかった。残念ながら「Jainの仮説」は誤っている。
*Rakesh K. Jain : Review Normalization of Tumor vasculature: An Emerging Concept in Antiangiogenic Therapy, Science, 307:58, 2005
リー湘南クリニック (2006年12月の記事、校正
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貼り付け終り。
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