欧米型の証明医療を実践されている
『リー湘南クリニック』李漢栄(医学博士)さんのブログ、
『院長ブログ・異端医師の独り言』より、転載させて貰います。科学が好きだと云うリーさんが、淡々と綴るこのブログは第一級の資料で、貴重な存在です。
貼り付け、開始。
2009年12月14日 ☆TNF TNFとは Tumor Necrosis Factor(腫瘍壊死因子)の略で、なかなか勇ましいネーミングである。1980年ころ、癌を移植したマウス(担癌マウス)に「リポ・ポリサッカライドという細菌が作る毒素」を注射すると、腫瘍が壊死し、血清中にかかる蛋白質が発見された。
毒素でなくTNFを担癌マウスに注射すると、やはり腫瘍が壊死する。僕ももネーミングにつられ、在米時、TNF関連の研究をし数編の論文になった。
TNFをマウスに注射すると、背部皮下に移植した腫瘍は壊死するが、筋肉内に移植した腫瘍は壊死しないことが分かった。また、腫瘍が壊死してもマウスの生存期間は対照群に比べ変化がなかった。

要は、TNFを投与すると低血圧を引きおこし、血流の悪い部分の腫瘍が壊死する、そしてその様な領域の腫瘍はいずれ自然に壊死するから、生存期間に変化がみられないわけだ。
それを裏付けるべく、敗血症ショックをおこさない亜種のネズミに腫瘍を移植し、TNFを注射してみたところ、何もおこらなかった。ちなみに、ヒトでも敗血症(血液中に細菌が見られる状態)からショックを引き起こす原因物質が TNF(およびIL1)である。
ほどなく、別に発見された「カヘキシン」という蛋白質が TNFと同じものであることが分かった。カヘキシンは「カへキシー(悪液質*)」に由来するネーミングで、寄生虫に感染し「痩せ細った」家畜の血清中に発見された。
寄生虫が宿主から横取りするカロリーは微々たるもので、宿主が分泌する「カヘキシンによる食思不振」が痩せの原因であることが判明した。(*悪液質:進行がんなど、慢性の消耗性疾患でガリガリに痩せた状態)
マリア・カラスが寄生虫(サナダムシ)をごっくんと飲み、ダイエットに成功した逸話を思い出す。宿主がサナダムシに反応し恒常的に低濃度のTNFを産生し、食欲が抑制されたのだろう。昨今、TNF(カヘキシン)は痩せ薬の用途として関心を集めている。
リー湘南クリニック (2007年9月の記事、校正)
2009年03月07日 ★★アメリカで助教授に 1985年当時、外国人医師が研究目的(exchange visitorという資格)でアメリカに滞在できるのは最長 2年、米国医師国家試験に合格し、専門医を取得した場合も、研修終了後「母国」へ 2年以上帰国しなくてはならない。以前は「外国]へ 2年以上という条件だったので、アメリカに永住を希望する者は「カナダ」で 2年間医者をやり、アメリカへ戻ってきた。
僕は、exchange visitor で入国していたので、2年すぎると、NY州移民局から毎週、国外退去命令と出頭命令が郵送されてきた。最初は、大学の秘書室がのらりくらり言い訳をしたが、限界が近づき、最終的には VT(バーモント)州の上院議員に便宜を図ってもらったらしく、就労ビザ(H1ビザ)がおりた。
Cockettは、助教授ポストをちらつかせ、昇進すると「こうこう、こういう良いことがあるよ」と囁きだした。給料は 5倍、フリンジベネフィットといって、学会出張時には、たんまり出張費を貰え、医療保険もつく。歯医者にもかかれるし、出産費もゼロになる。これも経験かと、1988年 7月に助教授になり、ロチェスター大学・泌尿器科スタッフ 9人の一人になった。
数年すると、Cockettは「グリーンカード(永住権)」を取得し、アメリカに住まないかと言い始めた。貧乏生活*には慣れたが、超一流の科学者(J. Folkmanや S.A. Rosenberg)に接し、自分のちっぽけさは自覚していたし、アメリカの医師国家試験を受け、専門医になるには、更に4年もかかる。とても無理な相談だ。
9*≪同僚の医師たちは、大学のサラリーのほか、出来高で診療収入も入るので、年収は僕の給料のおよそ 2.2倍であった≫
リー湘南クリニック (2006年12月記事、校正
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貼り付け終り。
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