それに対する編集者コメント(*2)を全訳しました。
≪≫内は僕の解説です。読むのが面倒くさくなったら末尾、「僕のコメント」だけでもどうぞ。
胃癌予防のため、ピロリ菌をスクリーニングし除菌する日の到来か? ピロリ菌は発がん因子に分類されているにもかかわらず、胃癌を予防するため、感染者のスクリーニングと治療は認められていない。その上、胃癌は世界で癌死の 2位をしめる。非噴門部性・胃腺癌≪いわゆる胃癌、腺癌=
腺細胞か ら生ずる悪性腫瘍のこと≫の 80%近くはピロリ菌が原因で、恐らく胃粘膜萎縮と続く粘膜化生による(図1)。環境的そして遺伝的暴露は重要で、1~3%のケースは遺伝性であるが、ピ ロリ菌はほとんどの胃癌発生に(十分ではないが)必要である。ピロリ菌感染後、胃粘膜萎縮と粘膜化生をもたらし、この場合、ピロリ菌を除菌してもすでに遅 く、胃癌発症を抑制できないかもしれない。一方、もしピロリ菌が胃癌発症の重要な原因なら、進行した粘膜萎縮の状態で除菌しても癌のリスクを低下させるで あろう。
本日のランセット、日本胃研究グループの Fukaseらは重要な無作為化試験で、ピロリ菌の除菌は胃癌発症率を低下させるかを問うた。対象は、内視鏡的胃粘膜切除術を受けた早期胃癌患者で、再発 の危険が非常に高い。550人近い患者(ほとんどは粘膜化生、あるいは中程度から高度粘膜萎縮を伴う)で、除菌により胃癌再発は 100毎年あたり 4から 1.4に減少した
≪544人を無作為に、除菌群(272人)と対照群(272人)に分け、3年間観察。再発は除菌群で 9人(3.3%)、対照群で 24人(8.8%)だった≫。
結果は明白である:ハイリスク集団で、除菌により胃癌再発率は減少したが、ゼロにはならなかった。なぜ、ある患者では除菌に関わらず胃癌が再発するのか 不明であるが、将来、遺伝子標的が個人別(tailor)治療を可能にするかもしれない。この臨床研究の結果は、同様の非・無作為化試験の結果と一致す る。この研究のもつ意味は、早期胃癌における癌再発予防をこえる。他の無作為化試験は、他のハイリスク集団でもピロリ菌除菌は、胃癌発生を抑制することを 示唆する。2007年のアジア・太平洋・コンセンサス会議は、ハイリスク集団に対して、ピロリ菌スクリーニングと抗生物質投与が勧められると結論した。
ほかに、いかに胃癌を予防するか?
早期胃癌発見のため、日本と韓国ではバリウムによる二重造影あるいは内視鏡によるスクリーニングが行われているが、この高価な戦略を支持する証拠はほとんどない≪下線by LEE≫。食事介在
≪サプリメント、α-トコフェロールとβ‐カロチンの効果≫を検討した研究の結果は、失望するものだった。
集団でピロリ菌を除菌すると潜在的危険がある。例えば、胃炎治癒に伴い酸分泌が増加し、胃・食道逆流病、すなわち
Barrett食道、そして食道腺癌のリスクを高くする可能性がある。メタ解析
≪似たような無作為化試験の結果をプールし合算し、推計学的パワーを大きくする手法:しかし、この解析法自体に疑問をはさむ一流論文もある(当ブログ「食塩の政治学」
≫は、通常・ピロリ菌(オッズ 0.52)そして高毒性・ピロリ菌感染(オッズ 0.51)は、食道腺癌の発症を抑制すると結論した。しかしながら、無作為化試験によると、少なくとも工業圏の住人では、胃・食道逆流病および腺癌発生の リスクは、そもそも小さいようである。
ピロリ菌が消滅すると、因果関係は不明だが喘息やアトピーを発症することがある。抗生物質・耐性菌の増加も懸念されるが、
アジアにおける抗生物質乱用に起因する諸問題は、 短期
≪一週間≫の 3あるいは 4剤の投与が、さらに状況を悪化させるとは考えにくい。総体的に胃癌発生率の高い集団におけるピロリ菌除菌の有用性は、リスクをおそらく上回る。ピロリ菌 除菌が普及すれば、消化不良と胃潰瘍に関連した死亡低下を含め、ヘルスケアー・コストを相当に節約する間接的効用をもたらす可能性がある。
ピロリ菌の除菌は、どの年齢でも胃粘膜萎縮、あるいは粘膜化生にかかわらず、胃癌発生率を抑制することを示す、確たる証拠を今や手にした。ピロリ菌除菌 の効用とリスクをアジアにおいて大規模・無作為化試験で検討する必要があるが、それには莫大な資金と時間を要す。今のところ、日本の保険制度は、ピロリ菌 除菌を消化性潰瘍に限定し、日本の専門医による合意があるにもかかわらず大規模な除菌プログラムを支持しない。除菌の適用範囲を早急に再検討する必要があ る。集団スクリーニングと除菌は、胃癌ハイリスク国の政府そして WHOにより遂行されるべきである。スクリーニングと除菌に関する社会的運動は、最大のコンプライアンスを確保するため、他の公衆衛生的戦略を必要とする だろう(治療失敗と耐性菌増加を最小限にするため)。結果を適切にモニターすることは必須だが、現在の日本と韓国における公衆衛生政策に比べれば、おそら く安価である。
大腸内視鏡は、大腸・直腸癌のスクリーニングに多くの国で用いられているが、有用性とリスクを比較した無作為化試験は存在しない。その上、世界的に胃癌による死亡数は大腸癌のそれを上回る、そしてピロリ菌除菌は大腸内視鏡スクリーニングより死亡率を低下させる優れた証拠が示された。胃癌多発地帯では、ピロリ菌除菌による胃癌予防を最優先にすべきである。
(*1) Fukase K. et al. Effect of eradication of H pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, RCT
Lancet 372:392 2008
(*2) Talley N. Is it time to screen and treat H pylori to prevent gastric cancer ?
Lancet 372:350 2008
僕のコメント ピロリ菌は、「胃炎」や「早期胃癌」の原因となるのは事実。しかし、50歳以上の日本人の 70~80%が保菌している事実に鑑みれば「これまで感染したことが無いヒトが初感染すると有症状の胃炎、ひいては胃癌を発症するのかもしれない」。いず れにしろ、胃炎は制酸剤ですぐに治るし、微生物による発癌は「命をとらない癌」で、自然治癒すると考えられる。だから、症状がなければピロリ菌がいても共 棲すれば良い。
ところが日本列島、大多数の癌専門医と大衆は「早期胃癌→ だんだん拡がる→ 転移する」と教条的信仰をもつ(信仰に逆らう見方は
こちら)。だから、検診で早期胃癌を発見され、不条理な手術を受けないために除菌して、早期胃癌にならないでおくのも得策です。検査(呼気をとる)と除菌にかかる自己負担分は、せいぜい数千円。手術に伴う費用やリスクに比べれば、ただ同然だし、はるかに安全だ。
除菌して早期胃癌が減って困るのは、オリンパスなど内視鏡メーカー、製薬会社(手術の方がはるかに多くの薬を使ってくれる)、病院(ドル箱=人間ドックの花形・上部消化管造影や内視鏡検査、そして手術が減る)、そして厚労省(天下り先が先細る)。
「除菌は、集団の生存率を対照群に比べ向上させるのか」という無作為化対照試験を、業界(厚労省・製薬会社・学閥)が許すはずはないわね。
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com 拙著「
癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(
正誤表)(2008年8月の記事、校正)
blog.livedoor.jp/leeshounann/archives/51358798.html敬愛するリー先生ちから転載しました(改行、赤文字着色は勝手にやりました)。
*小沢代表の無罪確定=指定弁護士が上告放棄
*国民の生活が第一「脱原発・反消費税・反TPP」です!!
・投票には「国民の生活が第一」と書きましょう。生活党では無効票になります。
・千早さん
『止めろよ原発!』 - みんなで歌おう 反原発ソング
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