欧米型の証明医療を実践されている
『リー湘南クリニック』李漢栄(医学博士)さんのブログ、
『院長ブログ・異端医師の独り言』より、転載させて貰います。科学が好きだと云うリーさんが、淡々と綴るこのブログは第一級の資料で、貴重な存在です。
貼り付け、開始。
2009年09月29日
★★ とある病院で ある精神病院で 医者になって2~3年目(北里大学病院時代)、神奈川県内の精神病院へ月に一度ほど、バイトに通った。金曜日の夕から日曜日の昼までの拘束で、バイト代は安かったが、深夜に起こされることがないので人気スポットだ。
仕事は、土曜日に婦長について 15分ほどの病棟回診。各病棟は鉄格子で隔離されていて鉄格子の外で、看守から異常なしの報告を受ける。女子病棟では、さながら人気アイドル、黄色い歓声に包まれた。他の時間は、昼寝、読書、テレビ、論文書き。
ある晩起こされた、いや~な予感。看護婦に案内され、鉄格子の中に入った。明かりがつくと、20畳ほどの小ざっぱりした畳部屋。大窓の鉄格子に首を吊った患者が、開け放れた窓からのそよ風に揺れていた。流石に閉鎖病棟だと思ったのは、寝ている患者さんが起きない。看護婦が死体の周りの患者を追い立てるのだが、すぐに元の床に付く。
さて、型通りに死亡確認をして、死体を安置しようとしたら、婦長に止められた。以前、死体を紐から降ろしたら、警察に「現況に復帰してください」といわれ、皆でヨイショと、死体を元通りに吊るし直したそうだ。病棟内での首吊りは、数年ぶりだそうである。それにしても、病院は小高い丘の上に位置し、目の前は団地、首を吊ったシルエットを目撃した住人もいたのでは…。

ある救急指定病院で 北里研究所病院後半時代(1990~96年)、週に一回、目黒のとある病院へアルバイトに通った。院長先生は憎めないタイプ、現在 80才過ぎだが、お元気なようだ。院長は留学経験があり、その体験を本にされ(読んだが抱腹絶倒)、流暢な英語を操る。(以下、不謹慎な表現がありますが、ありのままを紹介する意図です。)
午前中は外来、午後は病棟回診と小手術、そして、日によっては当直。その病院は救急指定で、院長は盆暮れには、せっせと「近隣の消防署に付け届け」をしていたが、深夜に起こされた記憶がない。きっと看護婦さんが満床だと、救急車を断っていたのだろう。
午前中、カーテン一枚隔て院長と向き合って外来診療する。小さな指の切創、1週目に抜糸しようとしたらカーテンがバッと開き、「だめです」。毎日消毒に延々と通わせる。20日間通わせると概算で 2万円の売上げ。
日頃から、入院患者を増やすよう指示されていたので、虫垂炎の患者に入院をすすめた。患者さんが「自宅で様子をみたい」と言ったら、カーテンがバッと開き、「入院しなければだめです」。
病棟回診、患者さんの多くは病院を終の棲家とされ、いたってお元気。この病院でのアルバイト経験が長い外科・豊田先生は、内部事情に詳しく「○○さんは、遺産を病院に残すと言ったので、院長は大喜びで入院させた。ところが、なかなか死なず、遺産を使いはたして、もう 8年。院長も諦めた…」。他の長期入院者からは、宿代を徴収していた。
夕方に、おじさんが来院された、「彫刻をしていたら誤って指を切り落とした」と。どの指かは覚えていないが、第一関節できれいに切り落とされていた。数ヶ月して、またそのおじさんが来院された、「彫刻をしていたら…」。ハテ、指が少ない、また、彫刻をたしなまれるような風体をしていない。豊田先生によると、やくざが指をつまされるとき、このおじさんにバイトを頼むそうである、「指を売ってください」と。いつの間にか、そのおじさんは「たこおじさん」と呼ばれるようになった。指の落とし方の詳細は、良い子がまねしないように割愛します。
ある日の午後、救急車が「キャタピラーに轢かれ、絶命している作業員」を運んできた。院長が嬉々と表に飛び出し、「リー先生」と呼ばれた、救命(?)処置の始まりである。死体に気管内挿管し、静脈路を確保し、心臓穿刺とマッサージ。その間、院長先生は、リー先生が何を投与し、どういう処置を講じたか、看護婦に記録させていた。30分ほどしてから、ようやく死亡宣告。院長は取り漏れ(投与した薬剤や、施した処置を保険請求する)がないか、念入りに記録をチェックしていた。消防署への「盆暮れ付け届け効果」。改めて、病院経営も大変だなと思ったものだ。
リー湘南クリニック (2007年7月と2009年8月の記事、校正)
2010年02月21日
★ 嫌われた「聖路加式」新人教育 医師 2年目から、後輩を聖路加方式で教育した。手術前には必ず英論文ないしは英文手術書を読ませたが、私のやり方は北里では異端だったので、疎ましく思われた。
1992年ころ、入江(横浜何とか病院の泌尿器科・部長)の前立腺全摘出手術を監督した時、あらかじめ英論文を渡し、徹底的に読むよう命じた。無事手術終了後「へー、論文を読んでから手術するとこんなに違うのですね」とお褒めの(?)言葉をいただいた。
リー湘南クリニック (2006年10月の記事、校正)
貼り付け終り。
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