欧米型の証明医療を実践されている
『リー湘南クリニック』李漢栄(医学博士)さんのブログ、
『院長ブログ・異端医師の独り言』より、転載させて貰います。科学が好きだと云うリーさんが、淡々と綴るこのブログは第一級の資料で、貴重な存在です。
貼り付け、開始。
2010年01月13日12:38
★ 聖路加病院に巣くう金の亡者カテゴリ:聖路加病院一年生
医師になって一か月目、一年間の
聖路加病院勤務を命じられた。月給は、10万円だったが、外の病院へ当直に行かされると一晩 3万円前後、製薬会社からの調査費や接待、そして、聖路加病院では殆どの患者さんが現金をおいていった。だんだん、この慣習に違和感をおぼえる医者と、この慣習をこよなく愛する医者に分かれて行った。
文化勲章を受章した
日野原は、当時「金の亡者」と呼ばれ、私が勤務した年、内科のレジデント 9人が抗議のため辞職した。何やら死の淵にある患者と金銭の交渉をするそうだ。「金の亡者」におもね、お気に召された輩は「日野原・チルドレン」と呼ばれていた。昨今、もはや聖路加病院には証明医療は存在しないのだろう、漢方や人間ドック(日野原の息子が部長)を軒先に並べ、日野原・チルドレン達が部長になっている。
高名な岡本・泌尿器科部長は、金持ちをこよなく愛し、毎週の部長回診では、大部屋の貧しい患者は「リー君、診ておきたまえ」でとばした。ルチーンの回診していたある日、個室に大金持ちの「健忘症」を合併する前立腺肥大症患者が入院した。彼は現在の出来事を 30分くらいで忘れる。だから必ずメモをとる。岡本・部長が入室してきた時の会話がメモに記されていた。「僕が世界の岡本です」。以下ご想像の通り、婉曲に手術謝礼の相場に言及していた。
どこの科でも一流の英米専門誌を読む「勉強会」が開催されるが、部長は「リー君、ぼくはもう勉強するものがないよ」とおっしゃり、勉強会には出席されなかった。当時、インポテンツ(EDという言葉はなかった)の手術が流行りだし、部長が学会で発言することになった。何と、何でも知っているはずの岡本部長は「医師になって 6ヶ月目のリー君」から手術法を教わった。
僕が聖路加一年生時代、外科や内科はアメリカで専門医を取得しないと、スタッフになれなかった。研修医達は非常によく勉強し、多くの先輩達は、臨床に非常に詳しく尊敬に値した。ところで、僕は入退院者のサマリーを英語で「タイプライター」で記した(ワープロなんかないですよ)。あれから四半世紀以上、何と僕のサマリーが新人研修医に「お手本」として、今だ使われているいるらしい。
リー湘南クリニック (2006年6月と2007年6月の記事統合、校正)
2009年03月09
退院時サマリー 聖路加病院勤時代(1980年5月から1981年3月)、受け持ち患者が退院するとサマリー(入院中の要約)を書く。英文タイプライターでサマリーを書いた(ワープロなぞ、ありませんよ)のだが、あれから四半世紀、僕のサマリーが今だ「お手本」として、新レジデント教育に使われているらしいのですよ。
2009年03月29日
☆★終末期患者さんに対する蘇生術 新米医師のころ、患者さんの心臓が止まると蘇生術(気管内挿管、心臓マッサージ、薬剤投与)を施し、自発呼吸が回復しない場合、人工呼吸器を装着するのが当たり前だった。終末期でも、たいてい心臓はまた動き出す。
終末期の患者さんに蘇生術を施すことに疑問を感じるようになってからは、あらかじめ家族と蘇生術を施すかを相談するようになった。私が関わった患者の家族で、蘇生術を希望された方は皆無だった。
終末期の患者さんは意識レベルが低いので、延命処置を施すか、ご本人に確認するのは不可能、また家族から「蘇生術を行わない、あるいは人工呼吸器を取り外す」ことを、「書面」で残すのは困難である。なぜなら家族は、後ろめたさや親戚への遠慮から署名を躊躇する。
新米医師を訓練する目的で、終末期の患者さんに蘇生術を施すのは、やもうえないことだ。特に、心臓マッサージ、気管内挿管や心臓穿刺の技術習得は重要。ただ、中堅病院で熟練した医師が蘇生術を施す目的は、売り上げ増で、蘇生術を施した場合、数十万円の利益が上がるのに対して、健やかに看取るとゼロになる。医師は経験を積むにつれ「ヒューマニズム」vs「病院経営」という葛藤に直面する。
北里研究所病院(港区)時代、毎月各科毎の売上げが公表され、また医師毎の売上げ表も作成され、売上高の多い医師は評価された。売上げ高を誇る医師は、一般に患者から人気があり、癌末期の患者さんに対しても拡大手術や化学療法を行い、そして、後輩に命じ、蘇生術を施していた。
健やかな看取りを初めて経験したのは、聖路加一年生時代。当直日、外科の癌末期の女性患者さんが心停止し、ナースから呼ばれた。型のごとく蘇生術にかかると、外科のチーフ・レジデント、ヒゲの桜井先生がすっと近づいてきて、「リー君、いいんだよ」とささやいた。
リー湘南クリニック (2007年1月の記事、校正)
貼り付け終わり。
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