この知見に関して、様々な有益な懸念が表明されたが、もう一つの懸念がある、推計学的見地からの懸念であり、データの解釈についてである、それは未だ議論されず、データの解釈に関し更なる、洞察を加えうる。
従い、この警告は、報告された10年・推定生存率の CI
≪confidence interval、信頼区間のこと≫の価値を検証し、推定生存率とその CIの過大評価を鎮める示唆をあたえる。
生存データを分析する時、生じえる考察のより公式的な検証の前に、動機づける例を詳細に検証する必要がある。I-ECAP研究は、約 32,000人の肺癌リスクのある無症状の被験者を、1993年から 2005まで、低線量 CTでスクリーニングした。
484人が肺がんと診断され、フォローアップの中央期間(median duration)は 40ヵ月
≪平均値(mean)だと、極端に短いあるいは長いデータが全体に影響を与えるので、中央値を用いる≫(1~123ヵ月)。計 302人が手術を受け、これら患者の 10年生存率は 92%(95% CIは、88~95%)と推計された。この警告が説明するように、この CIは不適切である。
I-ELCAP研究は、生存率を評価するのに非線形 Kaplan-Meier法を用いた、だからデータは正しく解析された。特に、中央観察期間は 40ヵ月で、6年間の観察後、リスクを有する被験者が約10%いた。
I-ELCAP論文は「材料と方法」で特に言及していないが、SASにおける Kaplan-Meier生存率曲線を算出する手順である、
PROCLIFETEST(SAS Institute)における不履行公式(default formula)なので、生存率の SE
≪標準誤差≫は、Greenwood法で計算されたと推察される。
Kaplan-Meierと Greenwood法は、Eventが生じたとき(I-ELCAP研究では、死)のみ推定する共通の属性修正をもつ
≪何のことか、さっぱり分からない≫。平たく言えば、推定された生存機能と SEは、次の eventがおこるまで、直近の eventと関連した数値として残る。続いておこる eventは、推定生存機能を低下させる、だから Kaplan-Meier生存率曲線は、お馴染みの右肩下がりを呈す。
推定・生存曲線を解釈するとき、リスク集団(risk set)の数が少なすぎないか確認すべきである。小さなリスク集団は、推定値に大きな変化をもたらし、解釈を困難にする。さらに、もし治療が死亡時期を遅らせると期待されるなら、適切な経過観察期間を得られるように注意が必要である。
すなわち、推定された生存可能性と CIが直近の死亡例から、十分に時間が経過しているか慎重に吟味する必要がある、特にリスク集団が小さく、大多数の治療例が検証されたときには。
I-ELCAP研究から、この警告の非常に単純なイラストレーションを描ける。特に、リスクがある患者 302人のうち、たった一例だけが 10年(123ヵ月)観察され、もしこの患者がたった一ヶ月後に死ねば、124ヶ月目の推定生存可能性はゼロに(Kaplan-Meier積は、推定値を制限するので、S (124) = 0.92 x (1 – 1) / 1 = 0)、また、SEもゼロと推計されるので、CIも 0から 0になる。
これらの推計は、I-ELCAP研究で報告された 10年生存率
≪92%≫と正反対である。明らかに、データを解釈するさい、たった一例が結果におよぼす影響を考慮すべきである。
推定・生存率とCIが誤解を招く可能性に照らして、普遍的な勧告が可能である。リスク集団が小さい時、Kaplan-Meier生存分析からえられる推定値は注意深く解釈されるべきである。Pocockらは、生存率曲線描写に関し、リスク集団は eventを経験していない被験者の少なくとも 10~20%であることを確認すべきと勧告する。
この示唆は、I-ELCAP論文にも当てはまる。さらに、Kaplan-Meierそして Greenwood分析法両方でリスクセットが小さい時(まあ、30以下)注意すべきである、なぜなら、両分析法とも大きなリスクサイズを必要とする無症候セオリーに依存しているからである。リスク集団が小さくなると、数式を駆動する無症候説は根拠を失い、だから推定値には疑問符が付く。
I-ELCP研究で肺を切除された患者という文脈で、全コホート
≪経過を観察されている集団のこと≫で中央観察期間はたったの 40ヵ月、302人中一人だけが 10年以上観察され、10年生存率を推測するには限界がある。リスク集団は、5年過ぎると毎年劇的に減少している。
したがい、引用された92% (CI、88~95%)10年生存推計は、実際は 4ないし 5年生存率をあらわし、大きなリスク集団の長期フォローが、手術が 10年生存率に与えるインパクトを理解するのに必要である。
*Henschke CI et al : Cautionary Note regarding the Use of CIs Obtained From Kaplan-Meier Survival Curves J. of Clinical Oncology 27:174 2009
**Cecchetto G et al: Survival of patients with stage I lung cancer detected on CT screening NEJM 355:1763 2006
***SAS Institute Inc: SAS/STA User’s Guide, Version 8. Cary, NC, SAS Institute Inc, 1999
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(李ら 北里医学 10:6、1980)。僕が書いた論文だが、いま読み返して、何のことかさっぱり分からないね。翌年、この論文の文言はすべてこのまま、数値だけをおきかえた論文を一般医学雑誌で観た。派手なことをするものだと思ったものだ。今は、パソコンで統計処理するから、生存率の中身を知る医者は少ないだろうね。
(2009年2月5日)
貼り付け終わり。
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