医療関係の世界は、外部からはうかがい知ることができない、異空間の一つですが、前回までの、皆さんの勇気ある発言で、だいぶ見えてきました。更に、掘り下げたいので、引き続きレポートします。
今回からは欧米型の証明医療を実践されている『
リー湘南クリニック』李漢栄(医学博士)さんのブログ、『
院長ブログ・異端医師の独り言』より、転載させて貰います。科学が好きだと云うリーさんが、淡々と綴るこのブログは第一級の資料で、貴重な存在です。 貼り付け、開始。
医者になるまで2009年12月17日
★医学部入学~医師国家試験 医学部に合格したのは、おそらく数学と物理が満点だったからだと思う。参考書そのままの「光電効果」(アインシュタインがノーベル賞を受賞した論文)とテコの問題が出た。
医学部の入学式で「君達はこれから、身の丈の高さほどの本を暗記することになる」と黒川医学部長が述べられたが、最初の 2年間(教養課程)は、ほとんど勉強せず、麻雀と部活にあけくれ、落第寸前の成績で進学した。その中で、印象に残った講義は、立川教授の医学史と黒川部長の医学概論である。医学史では、医学関係の良書を紹介され、「外科の夜明け」は衝撃的だった。医学概論では、ヒポクラテスの誓いなどを通じて、医師という仕事は特別なのだと教わった。
生物学の期末試験で、同級生 N君は「カレーライスの作り方」を答案に書き、ゼロ点をもらった。去年の噂を真に受けたらしい。3~4年生、いよいよ、お医者さんらしい勉強が始まった。骨学実習と解剖学実習である。骨学実習は、漂白した(ウジ虫に掃除してもらった)人骨をスケッチしながら、骨各部の名称や形を記憶していく。僕は美大を目指した経験から、デッサンに夢中になりスケッチを提出するのは、いつも最後だった。実習試験で、留年組みから「りー、答えを骨に書いておけ」と脅かされた。途中で骨に書かれた答えが発覚、助手の先生が消しゴムで消してまわっていた。

解剖学実習は、はじめて死体(ご献体)を前にして身が引き締まったが、全員がすぐになれた。実習がすすむと、寺田教授から「ご献体の一部を持ち帰らないように」注意があった。以前、勉強熱心な東大生が「手」を持ち帰り、電車内に置き忘れ、大騒ぎになったそうだ。
解剖学の教科書は、ドイツ語かラテン語だったが、英語も認められるようになった。米国が医学の最先端なので、英語で勉強するようにし、他の学科も英語の教科書をあわせて読むようにした。このころ ECFMGという、米国の外人向け医師国家試験を受け、学科は合格したが、語学(ヒアリング)は歯が立たなかった。
5年生になると、医者の格好をさせられ、12~13人で各科をまわる臨床実習がはじまった。産婦人科実習中、島田準教授(後に教授)が「私は加山雄三の子をとりあげた」と語り、また「芸能人の謝礼は 30万円が相場」だと自慢したのには呆れ果てた。
同級生の堤(故人)に誘われ、学生論文に応募した。これは学生に論文を書かせようという、北里大学独自の試みで「腎移植の生着率」というテーマを選んだ。当時、関数計算機やパソコンなど無く、最先端の「フォートラン」というコンピューター言語を学び、プログラムを書いた。詳細は忘れたが、プログラムを紙テープにおこし、洗面器大のディスクに読み取らせ、それを冷蔵庫大のコンピューターに差し入れた。学生がコンピューターを使えるのは夜間と休日だった。その後コンピューター言語が次々に新しくなり「フォートランは旧式言語」という文に出くわしてからは、コンピューターは苦手だ。
腎生着率におよぼす因子を定量的に解析し「生命表分析による移植腎生着率の検討」という論文にまとめ学内誌に掲載された。後日、僕らの論文の数値を入れ替えただけの盗作論文が一般紙に掲載されていたのには驚いた。
6年生、公衆衛生学「検診」の実習では、医者になりすまし患者さんを診察した。G留年生が緊張のあまり、聴診器を耳に差し込まないまま、聴診するのを正面(患者さんの背面)からみて全員で笑いをこらえたものだ。検診とは、かくもいいかげんなものだ。
卒業後、国家試験がまっている。運転免許証なみ受かって当たり前、落ちると半年待たなくてはならないのでものすごいプレッシャー。現在、国家試験は年に 1回なので、もっとプレッシャーが大きいだろう。
国家試験前の夏休み、大学で受験対策ゼミが開催されたが、高額なので受けず、杉本と堤と民宿で受験合宿を 1週間くらいした。とはいっても杉本と将棋ばかり指していた。国家試験前日、ほとんどの者はホテルに泊まりこみ、各医学部から漏れ伝わる試験問題情報を共有する。試験当日、ホテル組みが情報を確認しあっている。僕は全く無視したが、試験開始、一問目がその問題だった、頭が真っ白になったのを憶えいる。
冷静に考えたら、試験は 2日間にわたるが、全問五者択一、何も知らなくても 20点は取れる、プラス定番問題、そして答えに「…することもある」という文言が含まれていたらそれが正解ある。高校生に「分からない問いには、5角形の鉛筆を転がしその目に従う」、定番問題は教えておく、そして「…ことがある」が正解であることを教えれば、70%くらいは合格すると思う。
そういえば、運動部の先輩や同級生で「裏口組と思われる」方々、卒業できた者は、何回目にかは合格し、医者になりました。
試験が終わった数日後には、病棟に出勤し、合格したものとしてオリエンテーションを受け、雑用をやらされた。2ヵ月後、合格を知らされたときは心から安堵した。その後 10年間は、国家試験が迫っている、勉強せねばと悪夢でうなされ、アーもう合格したのだと冷や汗をぬぐったものだ。
リー湘南クリニック (2006年6月の記事、校正)
貼り付け終わり。
- 関連記事
-