無惨なまでに凋落し、かつての勢いと輝きを完全に失った日本企業。いったい何がここまでの惨状を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、米経済誌「フォーチュン」による「世界企業ランキング500」の推移を誌面で紹介。その上で、日本企業を追い込んだ真因を考察しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年9月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
中国との取り返しのつかない差。世界企業ランキングに見る日本経済の現在地
今年も米経済誌「フォーチュン」恒例の「世界企業ランキング500」が発表された。同種のデータには、英紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」や米誌「フォーブス」によるものなどもあり、「フォーチュン」が売上高+利益を中心に見るのに対し、FTは時価総額で、「フォーブス」は売上高+利益だけでなく資産、時価総額を独自に指標化するなど、手法に違いがあるので結果は一様ではないが、「フォーチュン」のそれは単純明快で分かりやすいので、各国経済の量と質の変化を大まかに見極めるには便利である。
迫っていた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が正夢となる瞬間
よく知られているように、同誌が今の形式でのこのランキングを最初に発表したのは1995年で、これは1994年の企業実績を元にした数値だったが、その当時の日本はと言えば、すでにバブル崩壊が始まっていたもののまだ地獄の深淵は見ていない、夢うつつ状態の終わり近い頃。トップ500に入った企業の国別の数を見ると、米国が最多で151社であったのに対し、それに肉薄したのは日本で149社。企業別で500社中のNo.1に輝いたのは三菱商事で、さらに三井物産、伊藤忠、住友商事、丸紅、日商岩井(後の双日)を含め日本の大手商社6社が揃ってベスト10に並び、「貿易立国=日本」の栄光を謳歌するかのようであった。しかもこの時、日本企業149社の売上高合計3兆8057億ドルは、米国企業151社の2兆9394億ドルを大きく上回っていて、エズラ・ヴォーゲルが1979年に予言した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が正夢となる瞬間が迫っているようにさえ思えたのであった。
それから28年が過ぎて、今はどうなったか。
完全に入れ替わった中国と日本の立場
2023年版でランク入りした企業の国別の数では、米国は変わることなく最多で136社であるのに対し、それに拮抗しているのは中国の135社。日本は中国に次ぐ第3位に留まっているとはいえ、企業数は41社にすぎない。日本と中国の立場が完全に入れ替わってしまったのである。
マラソンに例えれば、トップ集団を米中が形成して熾烈な優勝争いを繰り広げていて、それから大きく引き離されて第2集団を成しているのが日本、ドイツ、フランス、イギリス、韓国などであり、その中では日本が先頭にいるのは確かであるけれども、そこから抜け出してトップに迫ることは到底期待できないという有様である。
《図表1》
■今年のフォーチュン500の国別企業数・売上高の上位20
順位 国名 企業数(シェア) 売上高=100万ドル(シェア)
01 米国 136(27.2%) 13,035,957.2(31.8%)
02 中国 135(27.0%) 11,248,729.9(27.5%)
03 日本 49( 9.8%) 2,773,820.3( 6.8%)
04 ドイツ 30 2,491,164.3
05 フランス 24 1,707,890.9
06 イギリス 15 1,274,333.2
07 韓国 18 1,138,825.1
08 スイス 11 757,741.9
09 カナダ 14 654,242.9
10 オランダ 10 667,565.6
11 サウジアラビア 1 603,651.4
12 インド 8 596,184.5
13 ブラジル 9 532.670.1
14 台湾 7 494,357.0
15 イタリア 5 446,510.6
16 シンガポール 3 431,710.9
17 スペイン 8 421,534.3
18 ロシア 3 257,557.5
19 メキシコ 3 194,742.7
20 マレーシア 1 85,365.4
総合計 500 40,956,576.0
この順位は、ランク入り企業の国別の売上高合計に従っているので、第11位のサウジや第20位のマレーシアのように巨大な国営石油会社1社しかランク入りしていないのにここに入ってくる国がある。第18位のロシアや第19位のメキシコも似たようなもので、ロシアは3社がランク入りしているとはいえ、独り気を吐いているのは企業別で世界第41位の超巨大国営石油ガス会社ガスプロム1社だけで、後は世界的には無名の銀行と小売業である。メキシコも、企業別で世界第80位の国営石油会社ぺメックスが突出している。いわゆる先進国でも、イタリアはランク入り5社のうち圧倒的に大きいのはいずれも半国営の電力・エネルギー会社ENELと石油ガス会社ENIである。
中国に取り返しがつかないところまで広げられた差
ことほど左様に、国別の売上高合計の多寡を見ただけではその国の経済力がどれほどバランスがとれた質的な強さを持っているのかは分からないので、そこを推測するには、それぞれの国のランク入り企業の数の多さとその業種の多様さに注目しなければならないだろう。
ちなみに、1995年にはランク入りした中国企業はわずか3社、企業数で0.6%、売上高合計で0.4%だった。それが2012年には、米国企業の134社に対し日本が68社、中国が74社と、初めて日本が中国に逆転されて第2位の座を譲り、さらにそれから10年で取り返しがつかないところまで差を広げられてしまった。
わずか30年弱でこれほどまでに劇的な大逆転劇がどうして生まれたのか、その正面切った分析にはついぞお目にかかったことがない。私見では、それが出来ていないことが、日本経済の再生戦略が混迷の極へと突き進んでいることの根本原因であり、また中国の台頭への謂れのない恐怖感の蔓延による「中国脅威論≒台湾有事切迫論」の拡散の重要条件ともなっている。つまり、日本人が自分を正面から見つめ直すことができずに、よろず巧くいかないのは誰かのせいだということにして誤魔化そうとする知的退廃に陥りつつあるのをどこで食い止めるかという時に、1つの足掛かりは、この世界企業ランキングにおける日中大逆転の赤裸々な分析にあるのではないかということである。
あまりにも罪深いアベノミクスという金融的お遊戯
さらに、500社のうちトップの100位以内に入った日本企業を見ると、1995年版では37社で、100社中のまさに37%つまり3分の1以上を占めていたのに対し、2000年版ですでに22社にまで後退し、今年の版では、何とわずか5社。商社が3、自動車が2だけという寂しさである。
■95年、00年、23年のトップ100社入り日本企業の比較
1995年版 2000年版 2023年版
《商社》
1 .三菱商事 9 .三菱商事 45.三菱商事
2 .三井物産 11.三井物産 93.三井物産
3 .伊藤忠商事 13.伊藤忠商事 96.伊藤忠商事
5 .住友商事 18.住友商事 →321
6 .丸紅 20.丸紅 →190
11.日商岩井 39.日商岩井
21.トーメン →203
35.ニチメン →217
37.兼松
《商業銀行》
56.日本興業銀行 48.みずほHD →350
68.三和銀行 →286
75.三菱銀行 →167 →187
83.富士銀行
91.第一勧業銀行
93.日本長期信用銀行
99.住友銀行 →182 →321
《自動車・同部品》
8 .トヨタ自動車 10.トヨタ自動車 19.トヨタ自動車
23.日産自動車 40.本田技研工業 70.本田技研工業
46.本田技研工業 43.日産自動車 →160
62.三菱自動車工業 →137
《電気・電子機器》
13.日立製作所 22.日立製作所 →153
19.松下電器産業 26.松下電器産業 →218
32.東芝 30.ソニー →140
40.ソニー 44.東芝
45.日本電気 55.日本電気
65.三菱電機 98.三菱電機 →407
《コンピュータ・事務機器》
54.富士通 52.富士通
《電気通信》
15.NTT 15.NTT →109
《生命保険》
14.日本生命保険 28.日本生命保険
26.第一生命保険 64.第一生命保険
36.住友生命保険 96.住友生命保険
57.明治生命保険
《小売業》
73.ダイエー →162
90.イトーヨーカ堂 →152 →129
《電力・ガス》
33.東京電力 62.東京電力 →242
《金属・鉄鋼》
88.新日本製鐵 →181 →236
《産業機械》
85.三菱重工業 →158 →499
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企業数 37 22 5
〔注:→と数字だけのものは、左に記載した企業がトップ100から脱落した場合の500以内の順位を示す。それがないものは、500外への脱落か、あるいは合併・倒産等で企業名が変わったり消滅したりして比較できない場合を示す〕
これを見ると一目瞭然、日本は高度成長期までの大企業の一部が何とか生き残って頑張っているもののその多くは後退もしくは消滅し、他方、ITはじめデジタル経済の全世界的大展開に果敢に切り込んでいく新しい企業が全く台頭していないことが判る。
米国が何とか世界No.1の座を維持しているのは、クリントン政権時代に、冷戦終結に適合した「軍民転換」すなわち軍事分野で金に糸目をつけずに開発した最先端技術を思い切って民用に転換し、インターネットという無限の可能性を孕む電子空間インフラを全世界に提供したり、軍事用のデジタル衛星通信技術を民間に解放したり、自らデジタル革命を先導しつつその先行者利益をしっかりと確保したことによる。そして、中国がグローバル企業数で1995年のたったの3社から2023年には米国と完全に拮抗するまでに伸びたのも、その米国が切り開いた道筋を抜け目なく追いかけて、21世紀の新産業革命の一翼を担ってきたからに他ならない。
21世紀の(少なくとも前半)が米中2極の競い合いの時代となりつつあるのは、両国が国家的な産業戦略を以て世の中の変化に対応してきたからで、日本がその期間にアベノミクスなどという超ドメスティックな金融的お遊戯に耽って何の産業戦略も持たなかったことの無惨な結果が、この表にあからさまに示されているのである。
アベノミクスの罪は余りにも深い。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年9月25日号より一部抜粋・文中敬称略)
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