日本を代表するグローバル企業として知られるJT(日本たばこ産業)。そんなJTの子会社がウクライナから猛烈な批判を浴びていることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、ウクライナがJTインターナショナルをロシアの「戦争支援者」リストに加えた理由を紹介。さらに日本におけるたばこ規制が緩すぎる裏事情を解説しています。
プロフィール:伊東 森(いとう・しん)
ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。
発展途上国にも売りまくり。ウクライナがロシア1位のたばこシェア持つJTを猛烈批判
JT(日本たばこ産業)がロシアからの侵攻を受けるウクライナから猛烈な批判を浴びている。
8月下旬、ウクライナ政府はJTの海外の子会社「JTインターナショナル」が、軍事侵攻を続けるロシアでの事業を継続し、ロシアを経済的に支援しているとして、「戦争支援者」のリストに加えたと発表。
日本企業の子会社が、戦争支援者に指定されるのは初めてのことだ。同時に、アメリカのフィリップモリスもリストに加わった。
ウクライナ政府は、ロシアで事業を続け、ロシア国内で税金の支払いなどを通じて軍事侵攻を支えているとみなした国際的な企業を「戦争支援者」とみなし、ロシアでの事業の停止や撤退を強く迫っている。
このうちJTインターナショナルについては、ロシアのたばこ市場におけるシェアを最多の34.9%を占め、ウクライナの国家汚職防止庁は8月24日、JTインターナショナルを、
「ロシアのたばこ産業への最大の投資者で、主要な納税者だ」(*1)
と強く非難する。さらに、2021年には、JTインターナショナルから戦闘機100機を購入できるおよそ36億ドル(約5200億円)がロシアの国家予算に直接入っているとし、
「企業の代表は、ロシアでの新たな投資とマーケティング事業を停止したとしているが、ロシアでの製品の製造や流通を続けている」(*2)
と続けた。
「戦争支援者」リストには、これまでに中国やアメリカなどに本拠地を置く30社以上が指定されている。一方、JTは、
「ウクライナ政府の決定については承知している。ウクライナでは今も通常どおり事業を行っていて、必要な支援によってウクライナ経済に引き続き貢献していきたい」(*3)
とコメント。これまで通り、ロシアでの事業を続けるとした。
目次
JTグループは、世界120カ国以上でたばこ事業を展開し、2013年の時点では、海外のたばこ収益が47.7%と、国内の収益32.4%を上回っている。
JTインターナショナルは、世界70カ国に事業所を抱え、28カ所の生産・加工場を持ち、全世界で2万4000人の従業員を抱え、100カ国以上の国籍の労働者が働いている、超巨大グローバル企業だ。
他方、近年は世界的な海外M&A展開を行い、積極的な海外事業を進めていった。まだ日本で「M&A」という用語が身近でなかった時代、JTは1992年にイギリスのマンチェスターたばこを買収、1999年にはアメリカのRJRナビスコを9400億円で買収。
この時点で、JTは世界第3位のたばこ事業者という地位を手に入れた。
その後も、2007年にはイギリスのギャラハー社を買収。その規模は、2兆2000億円に上り、同時期にソフトバンクがボーダフォン(イギリス)を買収したときの買収額1兆9000億円を上回る。
同時にJTは、ロシアやトルコなどの新興国のたばこ企業を買収。新興国だけでなく、2011年にはスーダンの大手たばこ企業を、2012年にはエジプトの企業を買収しており、アフリカへの進出も果たした。
現在のたばこの消費量は、先進国市場における減少を、発展途上国や新興国での増加で補っている状態だ。とくに、アジアや中東、アフリカや中国、ロシア、インド市場におけるたばこ消費量は著しいものがある。
このような市場は、他の市場と比べてもたばこ規制の“緩い”市場であることは言うまでもない。要は、たばこメジャー企業は、規制の厳しい先進国をすり抜け、規制の緩い市場へとシフトしている。
もちろん、WHO(世界保健機関)もこの動きを察知し、発展途上国におけるたばこ規制の重要性を強調する。
背後に「たばこ利権」。日本のたばこ規制が緩すぎる訳
JTがここまで巨大化した背景には、日本における緩すぎるたばこ規制がある。事実、日本のたばこ規制は、たばこ規制枠組条約が求める規制から大きく遅れを取っている(*4)。
その背景には、「たばこ利権」という存在がある。「たばこ事業法」の下、日本は財務省とJTを中心に、葉タバコ農家、たばこ小売店、たばこ族議員が結束し、たばこの生産と製造、流通の既得権を守り続けてきた。
そのことにより、日本は長らく、罰則付きの受動喫煙防止法またはたばこ規制法を制定してこなかった。そのような国は、たばこ規制枠組条約180か国のうち、アフリカや日本と北朝鮮だけだった。
たばこは、脳血管疾患、心臓疾患、肺疾患そして癌を誘発する大きな原因の一つであり、さらに喫煙者のみならず、非喫煙者も受動喫煙により健康被害を受ける可能性がある。
WHOたばこ規制枠組条約は、2003年にWHOで採択され、それには、
「たばこの消費及びたばこの煙にさらされること」
が、死亡や疾病、障害を引き起こすと科学的証拠におる明白に証明されているとし、さらにたばこの需要を減らし、たばこの煙にさらされることを防ぐための措置を講じるよう、求めている(*5)。
2007年からは、締約国は、たばこの煙にさらされる受動喫煙の防止については、2007年に条約締約国による全会一致で採択された、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」を遵守しなければならない。
そのガイドラインでは、
「100%禁煙以外のアプローチが不完全である」
と分煙は不完全であるとし、
「すべての屋内の職場、および屋内の公共の場は禁煙とすべきである」
「たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は強制力を持つべきである」(*6)
とし、その期限として2010年2月までに屋内の公共の場における完全禁煙を実現させるための法的措置を求めた。しかしながら日本は、それを長らく実現できずにいた。
「たばこ無害論」で世論を操作するJTの卑劣
そもそも、日本は2003年の規制枠組条約の採択にあたり、アメリカ、ドイツとともに厳しい規制の反対意見を述べ、WHOのほかの締約国から、
「悪の枢軸」(*7)
とも呼ばれた“たばこ大好き”国家だ。さらに、2007年のガイドライン採択時には、日本だけが一部の記載の削除や変更を求めるなど、国際社会の場で孤立しかねない態度を取ってきた。
たばこ規制枠組条約には、
「店頭におけるたばこ製品の展示を規制すべき」(第13条ガイドライン)
とあるが、それに従うならば、コンビニのレジ裏のたばこ陳列など、“即アウト”だ。
それどころか、現在ではJTのたばこの売り上げの約75%をコンビニが占め、コンビニの売上の3割はたばこが占めるなど、
「コンビニ=たばこ屋」
と化す現状がある。
しかしながら、2023年、令和の時代にもなってなお、ときどきインターネットなどで「たばこ無害論」という陰謀論が跋扈する始末だ。
なぜこのような状況に陥っていたのだろうか。第5条第3項「公衆衛生の政策をたばこ産業から守る」のガイドラインには、
「締約国は、たばこ産業の雇用するいかなる人物も、たばこ産業の利益にために働く団体も、たばこ規制や公衆衛生政策を立案・実施する政府機関、協議会、諮問委員会の構成員として認めるべきではない」
とある。しかし、実際には日本においては、財務省をはじめとする霞が関からJTへの天下りだけでなく、JTから各省庁のたばこ関係部署をはじめとする霞が関の“天上がり”も常態化しているのが実情だ。
「たばこ無害論」は、JTによる巧妙な世論操作の一環だ。2013年には、JTインターナショナルはイギリスでたばこの包装に関するロビー活動を行っていたと暴露。ロビー活動に200万ポンド(約3億1400億円)を費やしていたことが分かった。
もちろん、日本でもロビー活動が行われていることは確実であり、日本において禁煙が進まないのはそのためだ。
■引用・参考文献
(*1)「ウクライナ政府 JT海外子会社を『戦争支援者リスト』に」NHK NEWS WEB 2023年8月26日
(*2)NHK NEWS WEB 2023年8月26日
(*3)NHK NEWS WEB 2023年8月26日
(*4)松沢成文『JT、財務省、たば利権 日本最後の巨大利権の闇』ワニブックス 2013年
(*5)松沢成文 2013年
(*6)松沢成文 2013年
(*7)松沢成文 2013年
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image by: T. Schneider / Shutterstock.com
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