ガソリンを筆頭に、モノの値段はどんどん上がる。なのに税負担は、軽くなるどころか重くなる一方。いったいなぜ?国が増税にこだわる理由、凄まじい税負担をめぐる現実……全部お伝えします。
前編記事『いつまで税金は上がり続けるのか…関係者が語る「財務省」が増税を止められない「ほんとうの理由」』より続く。
失われた30年の「こっそり増税」、全部暴く
なにげなく給与明細や年金の通知書に目をやると、天引きされている税金や社会保険料の額のあまりの大きさにギョッとする。そして、並んだ数字をマジマジと見つめながらこうつぶやく。
「前からこんなにいっぱい引かれてたっけ?」
……同じような経験をしたことがある人は少なくないだろう。
'90年代にバブルが崩壊してから現在までの30年は「失われた30年」と呼ばれるが、じつはこの期間は「増税の30年」でもあった。
しかもタチが悪いのは、その増税が、国民の目にはじつにわかりにくい「こっそり増税」だったことだ。あからさまな増税は国民の反対を呼ぶ。増税は、目につきにくいところでひっそりとおこなわれる。41年にわたって税理士として働いてきた山本和義氏が言う。
「たとえば相続税。かつては富裕層が相談にくるものという感じでしたが、'15年に基礎控除額が引き下げられ、『普通の人』もしばしば相談に見えるようになりました。親が子どもに、生活の不安を少し軽減できるという程度の額を残すだけでも相続税がかかるようになった。ひどい話です。
ほかにも、固定資産税の計算手法の微妙な変更や、株式の譲渡益にかかる税率の引き上げ、'99年に導入された定率減税の廃止といったやり方で、ジワジワと真綿で首を絞めるように私たちの負担は増やされています」
30年で凄まじい負担増
こうした「こっそり増税」の凄まじさをあらためて浮き彫りにするため、この30年で私たちの税金、社会保険料の負担がどれだけ増えたのかを試算した。試算にあたって『知らないと大損する!定年前後のお金の正解』の著者で税理士の板倉京氏の協力をあおいだ。
まずは、「収入から引かれるおカネの額」=「天引き額」である。
額面の年収が700万円の会社員の夫と、専業主婦の妻、10歳と8歳の子どもがいる4人家族を考えよう。天引き額はどれほど変化したか。試算の結果は、'93年の天引き額が約129万円なのに対して、'23年が約161万円というものだ(下の表を参照)。
1年あたりおよそ32万円もの負担増である。なぜこれだけ負担が増えたのか。板倉氏が言う。
「影響が大きいのは、15歳以下の子供を対象とした『年少扶養控除』がなくなったこと。民主党政権が子ども手当を導入したときにこの控除をやめてしまいました。
社会保険料の負担増も凄まじい。厚生年金の保険料率が14・5%↑18・3%、介護保険が0↑1・82%、健康保険(協会けんぽで比較)が8・2%↑10%です。税金に輪をかけて社会保険料の負担増はわかりづらく、反対を受けにくいという事情を反映していると思います」
年金を受け取っているケースも見てみよう。額面で年間300万円を受給している70歳の夫と68歳の妻(夫の扶養に入っている)を考える。試算結果は、'93年の天引き額が約16万円なのに対して、'23年が約45万円である。年金という虎の子の収入に関しても、天引き額は、30年で約29万円も増えている。
「30年のあいだに、介護保険が導入され、国民健康保険の支払額が劇的に増えたことが大きく影響しています」(板倉氏)
モノを買おうとすれば、そのときにかかる税金も、もちろん大きく引き上げられている。なにより大きいのは、消費税だ。'93年には3%だったが、現在、10%(食料品などは8%の軽減税率が適用される)まで上がっている。
前述した、額面年収700万円の4人家族で再び考えてみよう。国による家計調査によれば、4人家族の月あたりの支出の平均は30万円ほど。年間で360万円だから、'93年と現在の消費税の差を7%とすると、25・2万円の負担増だ。
驚くほど貧しくなった
身の回りのモノにかかる、消費税以外の税金も増えている。たばこ税の負担は、1本あたり約6・3円から約15・2円まで上がっている。
酒税は、発泡酒について見ると、0円だった負担が350mlにつき約47円となっている。一日一本このサイズの発泡酒を飲めば、年間で1万7155円の負担増だ。
自動車を所有している人の負担も増えた。たとえば、軽自動車税は、年間7200円だったのが、1万800円になった。
相続税の負担増も大きい。母親が6000万円分の遺産を残して亡くなり(父親はすでに死亡)、二人の息子がそれを相続するとしよう。
'93年には相続税はかからなかったが、'23年には、二人の息子が支払う相続税を合わせると、180万円かかる(一人あたり90万円)。10年かけておカネを準備すると、一人あたり年間9万円の負担増だ。
これらをすべて合わせると、4人家族であれば、1年間での負担増は、70万円に迫る。驚くべきことに、額面年収のじつに10%が、30年前に比べて余計に吸い上げられているのである。
さらにおそろしいのは、この間、物価は上がっているという点だ。消費者物価指数('20年を100とする)は、'93年が99・2、'23年8月が105・6である。そして、給料は横ばいだ。
この30年で、私たちの生活はここまで貧しくなってしまった。
役所はゼッタイ教えてくれない税金を減らす方法
ここまで見てきた通り、私たちは尋常ではない税や社会保険料の負担に苦しんでいる。そんななかで生活を守るためには、「支払う必要のない税金は支払わずに済ませる」姿勢が大切だ。
役所がみずから進んで利用できる手法を教えてくれることはない。必要なのは「自衛」である。大きな節税が期待できるのはやはり相続税、贈与税だ。今年のうちに「駆け込み」で利用しておきたい制度がある。前出の税理士・山本氏が解説する。
「まず相続税の節税でオーソドックスなのは、暦年贈与です。年間110万円分の贈与税の基礎控除(非課税枠)を利用して生前に贈与をしておき、将来発生する相続税負担を軽減する手法です。親が存命中に資産を少しずつ子どもや孫に贈与することによって相続税を回避する……とイメージするとわかりやすいです。
しかし、暦年贈与には、生前贈与加算というルールが付随してくる。被相続人(亡くなった人)の死亡前3年以内に贈与した財産については、相続財産に加えられ、相続税の計算の対象になるというものです。
じつは、来年1月1日以降の贈与から、この期間が『死亡前7年以内』に延長されてしまう。いまのうちに贈与をしておいたほうが、いざというときに節税になります」
さらに相続税、贈与税に関しては、もう一つ、今年12月31日で終わってしまう制度がある。それが、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」である。
堅苦しい名称だが、要するに、住宅を取得するという目的を持った子どもや孫(直系卑属)に贈与をする場合に、贈与税の非課税枠が設定されるというものだ。普通の住宅なら500万円、基準を満たした「質の高い住宅」であれば1000万円までが非課税となる。
将来的に子どもや孫に資産を残す予定があり、彼らがいま住宅を取得することを検討しているのならば、今年中に贈与をすると、大きな節税が期待できる。
つづいて、制度利用の期限が差し迫っているものではないが、相続税を節税するにあたって便利なのが、「一時払い終身保険」の活用である。一時払い終身保険とは、契約時に一括でおカネを支払い、死亡時に保険金を受け取るタイプの保険である。
医療費控除の誤解
生命保険の死亡保険金は、法定相続人一人あたり500万円までが非課税となる。この分は相続財産とはならず、税を回避できるのだ。
この方法がいいのは、相続税を圧縮できるだけではなく、もし相続税が発生した場合にも、相続した不動産などを売ることなく、保険金によって相続税の納付ができる可能性が高い点だ。うまく活用したい。
相続や贈与があまり身近ではないという人でも、利用できる制度はもちろんある。
「年金を受給されている方のなかには、確定申告を忘れている人がいますが、意外に利用できる控除があります。
けっこう申告漏れがあるのが、医療費控除です。医療費が年に10万円を超えないと控除を受けられないとイメージされている方が多いですが、総所得金額が200万円未満の場合、総所得金額の5%を超える額については医療費控除の対象となる。
たとえば所得が100万円の方だと、5万円を超えた医療費は、医療費控除の対象です。所得税や住民税をそれなりに節税できますから、これを忘れるのはもったいない。
また、生命保険料控除は意識されている方が多いですが、ほかの保険の控除は忘れがちです。医療保険やがん保険などに入っている方は、介護医療保険料控除を使えますし、個人年金に入っている方は個人年金保険料控除を利用できます」(前出・山本氏)
前出の税理士・板倉氏は、「損益通算」を勧める。
« ■自民にまた「政治とカネ」問題 高市早苗、萩生田光一、小渕優子 l ホーム l ■心停止後も脳は活動している可能性。 »