投資素人の高齢者に大手金融機関の過度な信頼を裏切るようにしてトラブルを量産してきた販売体制は目に余る。しかし、金融庁が動き出すのも遅かった。
怨嗟の声が相談窓口に寄せられるなか、金融庁がようやく問題視したのが昨年のこと。金融庁が重い腰を上げると同時に、国内証券会社の多くは一般の投資家に販売可能な公募型の仕組債販売を停止した。
証券会社の‟巧妙“な改革案自主的な販売停止以降、証券会社の自主規制団体である日本証券業協会(日証協)を中心に、今年2月に新しい販売ルール「複雑な仕組債等の販売勧誘に係る「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」等の一部改正について(案)」が発表された。
その中身を見れば、さすがにリスクを丁寧に説明するなど販売責任のボリュームは増したとは言え、販売した証券会社に入る手数料がいくらなのかは顧客に開示する必要がないなど、本質的な問題解決とはほど遠い内容だ。
次ページ:嫌な予感が… 現在、日証協の会員である証券会社からの意見を募っているとのことだが、本音は儲かる仕組債を早く復活させたい彼らから慎重な意見などは出てこないだろう。
7月ごろに新ルールは施行するとみられる。
つまり、一定額以上の金融資産を保有し、投資経験や金融知識を持つ人を対象に限定した仕組債販売が復活するということだ。
果たして、再び営業が過熱して、トラブルが増えることはないのだろうか。
後編『
‟情報弱者”は沈むしかないのか…⁉ 金融庁が過酷な「金融虐待」を放置するウラで、本当の「弱肉強食社会」が始まるヤバすぎる事情』で「仕組債」そのものの歴史とリスクについて考えていこう。
後編:貼り付け開始、
https://gendai.media/articles/-/1109822023.06.01
‟情報弱者”は沈むしかないのか…⁉ 金融庁が過酷な「金融虐待」を放置するウラで、本当の「弱肉強食社会」が始まるヤバすぎる事情
素人にはムリ!「仕組債」の恐るべき歴史
これまで銀行や証券会社の収益源となりトラブルを続出させた仕組債の販売が復活しようとしている。
前編『投資素人を恐怖に叩き落した「金融商品」が再び大復活って本当か…?金融界が再開を目指す「仕組債ビジネス」のヤバすぎる闇』で紹介したように、仕組債に関して証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)に寄せられた相談・苦情は、2019年度が672件、2020年度が461件にも上る。
証券各社は自主的に販売停止をおこない自主規制団体である日本証券業協会(日証協)を中心に、今年2月に新しい販売ルール(案)を発表した。7月頃に新ルールは施行するとみられ仕組債販売が復活すると見られている。
果たして再び苛烈な営業攻勢が行われ、トラブルが続出する結果にならないだろうか。
次ページ:なにもしなかった金融庁
そもそも仕組債は1980年頃に誕生し、橋本政権時の金融ビッグバンを経て、1990年代後半から販売件数が増加し始めた。オプションのプットの売りなどを絡めた複雑な金融商品であるため、販売スタッフによる説明不足などが起因となったトラブルは徐々に増加。
サブプライムショック前の金融機関イケイケの時代に、個人投資家、機関投資家などへの販売は急増し、ショック発生後、個人投資家のみならず、自治体や教育機関等が仕組債で損失を被ったという話が頻繁に聞かれた。
そして、2012年末にスタートしたアベノミクス相場で、仕組債の販売は再び増加し2010年代半ばから苦情が増加していった。
こうした複雑な金融商品の販売を管理監督責任のある金融庁はどのように考えていたのか。当局が発表しているレポートを見ると、適切な管理監督ができていなかった実態が垣間見える。
2015年9月に金融庁が発表した「平成27年事務年度金融レポート」にて初めて仕組債という文言が「本文」に掲載された。
推察すれば、前年の「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針の概要」にて登場した「フィデュ―シャリー・デューティー(商品開発・販売・運用等それぞれに携わる金融機関がその役割・責任)」という観点が金融庁内に浸透する過程で、仕組債という商品の販売体制に当局の関心が向かったのだろう。
次ページ:トラブル続出でも野放し…
しかし、この時は一時払い保険など節税ニーズが高い保険商品にスポットが当たっており、「本文」のなかで仕組債について詳しい言及はされていなかったほか、まとめられていた「主なポイント」には、そもそも仕組債という記載すらなかった。
その後、2018年の「平成30年事務年度 変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針」において、仕組債という文言は記載されているが、156ページに及ぶ「本文」で、たった一か所出てくるだけだった。
それも「数名の担当者の下で複雑なリスクプロファイルを有する投資信託・仕組債等に多数・多額の投資をする等、複雑な商品の運用態勢・リスク管理態勢が不十分」という内容に留まっている。
次ページ:増え続けた「被害」訴える声 以後、2019年、2020年の金融行政方針及び金融レポートでは仕組債には全く触れられず、ようやく2021年8月に発表された「2021事務年度 金融行政方針について」で、仕組債の販売体制等に関するモニタリングを行うといった記載が「統合版」に登場した。
遅すぎた金融庁の対応でトラブル続出仕組債に触れられなかった2年間に、前述したとおりFINMACに寄せられた相談・苦情は、2019年度が672件、2020年度が461件も発生している。
2021年事務年度の金融行政方針にて、仕組債に関する言及を再開したのは、足元の相談・苦情発生に対するリアクションだろう。
その後は、2022年5月に金融庁総合政策局が作成した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」、同年8月の「2022事務年度 金融行政方針について」のレポートで厳しい言及があったのは周知の事実だが、2015年に気付き始めた当局の対応はかなり遅く、放置している期間が数年存在する事実は気になるところだ。
次ページ:仕組債ビジネスはなくならない
さて、そんな曰くつきの金融商品である仕組債が、販売再開となった際、果たして売れるのだろうか?
筆者は、それなりに売れると考える。理由として顧客のニーズと販売する金融機関の切実な収益状況があるからだ。
2021年6月30日に金融庁が発表した「投資信託等の販売会社に関する定量データ分析結果」によると、2020年の主要銀行、地銀、証券が販売した仕組債の金額は4.3兆円にも上る。その販売手数料率は2.7%前後とされているので、単純に計算して2021年に主な金融機関が仕組債販売で計上した手数料の利益は1100億円である。
その規模の大きさは証券各社の2023年3月期の決算を見ればよく分かる。
国内5大証券会社(野村ホールディングス、大和証券グループ本社、SMBC日興証券、三菱UFJ証券HD、みずほ証券)とSBIホールディングスの6証券会社合計の2023年3月期税引き前利益は3486.6億円だ。
仕組債の販売は、まさに金融機関の命運をにぎっている。
次ページ:ブラックボックスは変わらない
しかも、この金融庁の資料にある販売手数料率の2.7%は、実態を著しているか疑問が残る。なぜなら、筆者がリーマンショック前後に大手国内証券会社や、米系大手銀行などから実際に聞いた手数料率よりかなり低いからだ。それも2-3%も低い。
もちろんボラティリティや、相場の地合いなどによって手数料が大きく変化するもの。ただ、今回の新ルールでも、手数料率による開示は回避されているなど、仕組債のブラックボックスは何ら変わっていないのだ。
トラブルの火種は残ったまま
喉から手が出るほど手数料が欲しい金融機関は、慎重にかつコストをかけて可及的速やかに体制を整えて、仕組債の再販売に力を入れることだろう。特に収益源が乏しい地銀や地方証券ほどその傾向は強まるだろう。
説明責任など販売体制をどのように改善しても、ブラックボックスが存在する限り、顧客と金融機関のトラブルの火種は残り続けるだろう。
投資素人が決して手を出してはいけないのが、仕組債なのだ。
貼り付け終わり、