内閣府の景気動向指数が「足踏み」の景気判定をし、かつ景気後退期の疑念さえ持たれる中で、株価は逆行高となっています。先週、日経平均株価は3万円を突破、金曜日にはバブル後の最高値を更新しました。企業業績も概ね堅調ですが、インフレでも世界で唯一金融緩和を続ける中央銀行の姿勢と、米国の大手ファンドが日本株買いに積極的との報道も追い風になっています。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年5月22日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)氏
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
景気後退疑念のなかでの株高
先週発表された今年1-3月期のGDP(国内総生産)は.前期比0.4%、年率1.6%増と、3四半期ぶりのプラス成長となりました。昨年後半は2四半期連続のマイナス成長でしたが、今年になって個人消費の回復でプラス成長に戻った形になりました。しかし、内閣府の「景気動向指数」によれば、足元の景気は依然として「足踏み」にあります。
しかも景気先行指数が21年6月をピークにその後低下を続け、一致指数は昨年8月をピークにその後低下を続けていることから、景気は昨年夏場をピークにここまで景気後退に入っている可能性を示唆しています。そして先行指数、一致指数の低下持続は、まだそこから脱出の兆しも見えません。株価は通常、景気後退期間中に「底値」をつけます。
ところが、今日では景気後退の疑念がもたれる中で株価が3万円を超えてバブル後最高値を更新しました。マクロ景気の面からは説明しにくい株価の好調となります。
日経平均株価 日足(SBI証券提供)
では何が株価をここまで押し上げているのでしょうか。少なくとも3つの要因が考えられます。
株価上昇の要因その1:バフェット効果
第1に、米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏が、日本の商社株を中心に、日本株を積極的に買っていることが分かり、これに大手の米系ファンドも追随していることです。これを知った日本の投資家がさらにこれに乗って「提灯」をつける形になっています。
ではなぜ、いま米系ファンドが日本株を買うのでしょうか。1つ考えられるのは、米国株がそろそろ高値警戒感を持たれていることで、米国株が大きく下げる前に、ドルベースで割安な日本株に乗り換えておこうとしている可能性があります。米国の金融引き締めは79年のボルカー・ショック以来の強烈なもので、米国の投資家の多くが米国経済が近々景気後退に入ると懸念しています。
米国が景気後退に入り、しかも金融不安がこれに加われば、米国株は調整を余儀なくされると考えられます。米国株がこれまで大きく上昇してきた分、調整幅も大きくなる懸念があります。その中で日本株がより安全で、円安の分ドル建てでは割安に見えます。しかも植田日銀は辛抱強く金融緩和を続け、景気支援を打ち出しているだけに、株式市場はこれを好感しています。
Next: 株価上昇の要因、残り2つは?日本人投資家が取るべき戦略
株価上昇の要因その2:植田日銀効果
今や主要国が軒並み金融引き締めでインフレに対処する中、世界で日本と中国だけが依然として金融緩和を続けています。このうち中国はむしろデフレ的な分、金融緩和もうなづけますが、それでも欧米の利上げの中で金融緩和をしているために、資金が中国から流出し、人民元安になっています。先週末にはオフショア人民元が一時7.07元台まで下げました。
中国に緩和の必然性があるとなれば、日本だけがインフレの中でむしろ金融緩和を続ける「異常な国」となります。植田日銀としてはチャンスをみてYCCなど、緩和スキームの見直しをしたかったようですが、海外経済の後退懸念が強まり、さらに欧米発の金融不安も指摘される中で、緩和の修正が難しくなった面は否めません。それでもインフレが日銀の予想に反して、この4月も加速しています。
国内の要因からみれば、インフレ目標の超過達成が見込める中での大規模緩和継続は通らないのですが、外部から何等かの圧力が働いている可能性もあります。特に国際金融資本からすれば、欧米が引き締めを続ける中で、日本と中国が緩和を続けることが、ある意味では逃げ場をつくってくれているだけに、都合がよい面もあります。実際、IMF(国際通貨基金)は日銀の緩和継続に理解を示しています。
彼らにしてみれば、欧米に加えて日本まで引き締めに出れば新興国が持たない、との懸念があります。特に中国も含めてアジア経済への負担が大きくなるので、そこへの配慮を求める、ということになります。「国際金融村」から「村八分」にされないように、植田総裁も彼らに気を遣わざるを得ない面があります。ドルで割安となった日本株を外人が買えば、円建ての株価はさらに上がります。
株価上昇の要因その3:株主尊重経営
そして最後に、日本企業の経営者が株主への配慮を強く意識していることです。少なくとも2つの点が指摘できます。1つは、利益を上げても投資や人件費に還元せずに、自社株買いに充てて、株の需給改善、株高を演出しています。投資家はこれを好感してまた株を買います。米国企業だけでなく、日本企業も近年、自社株買いを高める傾向にあります。
また経営の効率化も、むしろ企業の顧客より、株主を意識したものが目立ちます。例えば、銀行の例でみますと、長年にわたる超低金利、マイナス金利で収益が圧迫される中で、経営の合理化、効率化を求められています。そこで銀行はコスト削減のために有人店舗を減らし、ATMを他行と共有化して数を減らし、さらに振込手数料の引き上げ、新規の通帳発行手数料徴求を打ち出しました。
これは一見コスト低減、効率化で収益確保に見えますが、銀行の顧客に対するサービスの低下、コストの預金者への付け替えにすぎません。つまり、顧客よりも株主の利益を重視した効率化となっています。これは長い目で見ると、企業の競争力を低下させ、顧客の離反を進める面があり、日本経済にはマイナスとなります。
Next: 日本買いはいつまで続く?「5月に売って待て」の格言も
5月に売って待て
広島サミット後には岸田総理は解散総選挙に出る可能性があり、野党はその準備が間に合わないので自民党勝利、とのシナリオも日本株買いの要素になっていると言います。
米国の株式市場には「Sell in May,and go away(5月に売って市場から離れろ)」という格言があります。日米ともに景気の実態のわりに株価が高くなっています。「安く買って高く売る」原則からすれば、株を持っている人にとっては「絶好の売り場」とも言えます。
そして株価が下がった9月にまた戻ってこい、との落ちがついています。
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