もはや「凋落」と表現する他ない日本産業界の惨状。この先我が国はどこに活路を見出すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、自身が注目する2つの分野を上げるとともにその理由を解説。日本が再び世界を席巻するため策定すべき国家戦略を提示しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)氏
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
日本の失われた30年を経産省から見続けた経済産業政策局長インタビューを読んで思うこと
● なぜ「失われた30年」を止められなかったのか…経産省が「結果を出せなかった」と反省するバブル崩壊後の誤算
日本の「失われた30年」を経産省から見続けた飯田祐二・経済産業政策局長のインタビューです。
飯田氏によると、「失われた30年」の原因は、日本企業が売り上げを増やすことよりもコストカットを優先し、同時に、国内投資よりも海外投資に力を入れた結果、日本国内の賃金が伸びず、国内経済の活力が失われた結果だとのことです。
今後は、官も一歩前に出て大胆な国内投資を呼び込もうとする「新機軸」戦略を進めるが、その中で注目すべき領域が、
とのことです。
いかにも霞ヶ関の官僚が言いそうな優等生的な答えですが、過去30年間、彼らが頭を絞って色々とやってきながら、なぜ失敗しづつけて来たのかに関する、しっかりとした考察なしには前に進めないように思います。
霞ヶ関の官僚たちが決して向き合おうとしないのが、日本社会に蔓延する「天下り文化」です。日本では、役所から民間への天下りはもちろんのこと、民間企業から子会社や下請けへの天下りも横行しています。霞ヶ関や大企業の偉い人たちが、自分たちの天下り先確保のために会社を作り、そこに仕事を流し込むようなことが、堂々と行われているのが日本社会なのです。
この日本社会に蔓延している「天下り文化」が、企業間の自由競争を阻み、ベンチャー企業が成長しにくく、企業や人の新陳代謝がなかなか進まない日本社会を作っている事実から目を背けてはいけません。
私が20年前近くから批判している、日本のIT産業の「ゼネコン構造」も、「天下り文化」と非常に親和性が良く、いつまで経っても解消されないのです。
少子高齢化が激しく進む日本だからこそ注力すべき分野
それは置いておくとして、今後の日本がどこに力を入れて、どう発展していくべきかはとても重要なテーマだと思います。経産省の新規軸がターゲットとしている領域は、確かに成長が期待できる分野ではありますが、それは他の国々にとっても同じで、そこで日本が突出して成功するのは簡単ではないと思います。
私が経産省の幹部であれば、少子高齢化が激しく進む日本だからこそ必要な、「老人介護」と「育児」の分野に着目します。
今後、さらに高齢者が進めば、親の介護のために仕事を辞めてしまう人が増えたり、介護ビジネスが慢性的な人手不足に陥ることは目に見えています。労働者の大半が、老人の世話をしなければならなくなれば、国の成長は止まります。
「育児」の問題を解決することも緊急課題です。育児の現場も介護と同じく慢性的な人手不足に悩まされている上に、高い育児コストが女性の社会進出を拒んでおり、それが少子化を加速する一員にもなっています。
そう考えれば、AIやロボットを最大限に活用することにより「老人と子供に優しい社会」を作る国家戦略は、日本社会が直面している問題を解決するための投資であると同時に、そこで作られた技術を将来の日本を支える貴重な輸出産業として育成する投資でもあり、とても理にかなっています。
少子高齢化に悩む日本だからこそ誕生した、介護ロボット・自動運転送迎バス・育児AIなどが、20年後、30年後に世界を席巻する、そんな明確なビジョンを持って、日本を率いて欲しいものです。
(『週刊 Life is beautiful』2023年5月23日号の一部抜粋です。続きはご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)
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