ちなみに浦発銀行クレジットカードセンター社員・職員のうちおよそ1万人が人材派遣会社と契約した非正規雇用で、非正規雇用の契約社員の月給は1~2万元(約20万~39万円)だったという。
契約社員たちは新たな請負企業との再契約に際し、それまで所属していた人材派遣会社に対して勤続年数×月給分の退職金を支払うように要求したが、会社側はこれを拒否。また新たな請負企業が提示した給与は新人のもらう給与のように低かったという。
ある契約社員は月1万元あった月給が4000~5000元に下げられたという。
派遣労働者とトラブルが続出この人材派遣会社は大手人材派遣会社、上海外服集団の子会社で、2016年におもに浦発銀行のクレジットカードセンターなどのアウトソーシング業務を請け負うために創設された。
銀行のクレジットカードセンターは銀行の子会社のなかでは特殊な存在で、業務そのものがアウトソーシングとして請負企業に丸投げされることが多い。銀行と請負企業間で代理契約協議を結び、請負企業がクレジットカードセンターの運営を行い、銀行自身はその運営に直接関与していない。
次ページ:複雑すぎる雇用形態 中国でクレジットカードセンターが一時期、雨後の筍のよう誕生したが、経済が悪くなった現在、クレジットカードセンターは飽和状態になっており、いずれのセンターも業績悪化に悩んでいる。
そういう中で銀行側はクレジットカードセンターの縮小を進めようとするわけだが、銀行側が請負企業側に派遣社員・職員数を減らすように求めても、リストラされた派遣社員に対していわゆる労働法に基づく退職金支払い義務は銀行側にない。
その義務を負うのは人材派遣会社、請負企業だ。
だが、派遣会社、請負企業としては労働者の派遣先が変われば、給与や雇用条件の調整は当然と考え、契約社員とトラブルになりやすい。
浦発銀行の問題は、銀行の経営悪化、クレジットカードセンターの業績悪化と、人材派遣企業による専門的な業務アウトソーシング契約のトラブルが重なって複雑化したものだといえる。
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米中分断にあえぐ中国の銀行
だが本質は、中国の銀行業界の問題であり、それは中国経済全体の問題といえる。
近年の銀行市場は相対的に飽和状態で、銀行間競争の圧力は大きくなっている。北京はまだましだが、急激に厳しくなっているのは上海で、クレジットカードや理財商品の銀行員の販売ノルマは重く、かつてほど銀行員は花形職業には思われていない。
上場銀行の年次リポートを見れば、一部銀行のクレジットカード発行量、流通量の増加速度は減速している。浦発銀行についていえば、2022年末、クレジットカード流通量は5133.16万枚で、前年同期比5.98%増で、これは2021年が前年同期比で10.78%であることと比較すると急減速といっていい。
次ページ:米中分断が銀行を苦しめる
銀行保険監督管理委員会、人民銀行が2022年7月に発表した「クレジットカード業務ルールの健康発展に関する通知」では、18カ月以上の取引がなく、当座貸し越し残高や過払いがない長期休眠カードが同じ銀行の発行するカード総数の20%を超えてはならないと規定された。
この比率を超えた段階で、銀行は新たなクレジットカードが発行できなくなるのだ。
中国ネットメディアの新浪財経によれば、浦発銀行の総資産は8.8億元あるが、その利益は3年連続で下落しており、行員給与は何度かにわけて引き下げられたという。
浦発銀行側は、この理由を国際地政学上の衝突がグローバル経済にマイナス影響を与え、今後の経済回復の見通しが不確実になっていることが原因だと説明している。
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習近平のバブル退治の「落とし穴」
SNSなどで人気の財経評論家の蔡慎坤がこの浦発の問題の背景についてこんなコメントをネットメディアに寄せていた。
「これは中央企業の利潤が急減少しており、その結果生まれた不良債権の損を最終的に銀行が引き受けなくてはならないからだ。銀行はどこからも借金を取り立てることができないのだ」
習近平政権は今年に入って不動産政策の転換を打ち出し、不動産市場の回復を目指しているようだが、ゴールドマンサックスやUSBの予測を見ると、中国の今年の販売住宅面積予測はそれぞれ8%下落、10%下落としており、2022年の20%以上の下落と比べれば多少は改善するも、依然として苦境にあることに変わりない。
次ページ:金融粛清とポピュリズム
ポピュリズムに滅ぼされる「中国金融」習近平の不動産政策の失敗は、消費者の不動産市場への信頼を根こそぎ奪い、銀行は消費者の住宅ローン返済拒否問題とデベロッパーに対する投融資のエクスポージャー拡大の両方の圧力、リスクの板挟みという厳しい状況に陥っている。
さらに習近平の今年の政策の目玉は、金融機構改革で、腐敗撲滅を建前に金融機関に対する監督統制を強化することだ。また、習近平の掲げる共同富裕論にもとづき、銀行員の給与が高すぎるという世論も起きていた。
こうした中国の経済、社会環境の縮図が浦発銀行問題に表れたと言える。
次ページ:滅びゆく金融エリート
銀行員だけでなく、証券マン、地方政府公務員、中央企業管理職などこれまで安定職業、高給取りのエリート、花形とよばれていた職業は今、新規採用が激減し、給与カットが繰り返され、リストラが進んでいる。
そして高額給与のエリートたちに対して「給与をもらいすぎだ」と批判する庶民の恨みが、習近平の「共同富裕」政策の錯誤を修正させるどころか、後押しする状況で、中国経済が悪化していく中で、金融エリートたち、安定花形職業は消滅していくしかない状況なのだ。
貼り付け終わり、