住む人がいなくなれば、「家」はあっという間に劣化してしまう。重い税金を課せられ、解体するにも巨額の費用がかかり、手放すのはますます難しくなっていく。実家の処分は時間との闘いなのだ。
親が亡くなり実家は放置
「ちょっと、ウチで扱うのは厳しいですね」
亡くなった母親が暮らしていた実家を売却しよう。そう思って訪ねた不動産屋で、今井武夫さん(仮名)は厳しい現実に直面することとなった。
新潟県北部の駅から徒歩で1時間以上かかる実家は、人気の土地とは言い難い。しかしまさか「売れない」と断言されるとは。今井さんの心は完全に折れてしまった。それから5年が経ち、今井さんは現在74歳。実家は放置したままだ。
「固定資産税は約3万円で、そんなに大きな負担でもない。何とかしたいと思わなくもないですが、子どもに任せてもいいかな……」(今井さん)
だが悠長なことを言っていられるのも今のうちだけ。厄介な「法改悪」が、通常国会(6月21日まで)で決まりそうなのだ。
「法改悪」で「特例措置」が使えなくなる
「住宅用地の固定資産税は、200㎡まで6分の1に、それ以上は3分の1になる特例措置が用意されています。ところが新しい法律では、『管理不全空き家』として勧告された家はこの特例措置が使えなくなってしまうのです。
土地の面積によって税額が左右されますが、早ければ翌年から5倍程度になると思ってもらえればいいでしょう。地方にある家なら、例えば3万円の固定資産税が15万円ほどに、首都圏郊外の家なら5万~6万円だったのが30万円ほどになります」(不動産コンサルタント・齋藤智明氏)
仮に孫の代まで30年間、毎年30万円の固定資産税を払い続ければ、900万円もの税金を取られるハメになる。
国が新制度を作るのには、理由がある。実はこれまでも、同じように固定資産税の軽減措置を外す「特定空き家」という制度があった。
ところが、多少劣化した家であっても適用されることは稀だった。特定空き家になれば、最終的には自治体が"税金"を使って処分することになるケースが多い。
自治体からすれば、予算を割いて解体をしても赤字になってしまうため、積極的に特定空き家に指定してこなかったのだ。
1年放置するだけで「管理不全」に
親が亡くなり、人が住まなくなった実家がいつのまにか「時限爆弾」になっているかもしれない。法改正で特例措置が使えず、いつのまにか重い税金がのしかかる。さらには売却・解体をしようとしてもできなくなる恐れもある。
後編記事「実家の解体費用「500万円」をめぐり家族が絶縁…放置した空き家が引き起こす「ヤバい事態」」で引き続き紹介する。
「週刊現代」2023年5月20日号より
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