まもなく統一地方選挙という時期でもあって、政府は国民への物価支援、補助金などバラマキが加速しています。物価高対応にしても少子化対策、子育て支援についても、その原因に迫る対策が取られないまま、補助金・支援金など「お金」をばらまいて対応する姿は、問題を真剣に解決しようとはせず、国民へのご機嫌取りで選挙戦を有利に持ってゆきたい下心が透けて見えます。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年3月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)氏
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
統一地方選挙前の風物詩「補助金バラマキ」
まもなく統一地方選挙という時期でもあって、政府は国民への物価支援、補助金などバラマキが加速しています。
物価高対策として電気ガスの激変緩和対策に続いて、5月からは電気料金に上乗せされていた「再エネ賦課金」を平均世帯で月820円引き下げると言います。そして低所得世帯への物価高支援3万円、児童手当5万円支給の対象年齢拡大、所得制限撤廃を検討しています。
しかし、物価高対応にしても少子化対策、子育て支援についても、その原因に迫る対策が取られないまま、補助金、支援金など「お金」をばらまいて対応する姿は、問題を真剣に解決しようとはせず、国民へのご機嫌取りで選挙戦を有利に持ってゆきたい下心が透けて見えます。
児童手当の所得制限撤廃に疑問
まず児童手当5万円の支給にあたり、これまでの所得制限撤廃を検討すると言いますが、これが少子化への対応策になるのか、極めて疑問です。
すでに児童を持つ世帯を所得面で支援することが、さらに子どもを増やすインセンティブになるでしょうか。しかも児童がいれば富裕層にも支給するようになりますが、その資金を誰が負担するのでしょうか。
さらに対象児童の年齢を18歳に引き上げると言います。高校生に児童手当ということに違和感が否めません。高校生を持つ世帯に児童手当を支給することで、出生数が増えるのでしょうか。少なくとも少子化対策とは言えず、選挙にらみの「ゴマすり」としか見えません。
子どもを持ちたくても、結婚する資金的余裕がなく、欲しくても子どもを持てない人々が、すでに子どもを持てている世帯への資金支援をすることに違和感があります。少子化対策というのであれば、なぜ子どもを産めないのか、その原因をしっかり追究する必要があります。
これまで何人もの少子化担当大臣を置き、組織として対応してきたのなら、それくらいの研究、知見があっても良さそうですが。
子育てにお金がかかるのは事実です。だから結婚はしても子どもは持てないという世帯には支援が必要です。しかしそれは児童手当ではありません。またすでに児童のいる世帯に手当てを支給すれば、2人目・3人目を産むインセンティブになるのでしょうか。子ども1人5万円で子育てできるか、との声が聞こえます。
富裕層に児童手当を支給するなら、その分を低所得層に回してあげたほうがよほど役に立ちます。年収平均190万円の非正規労働者支援に回して結婚できる環境づくりに使うほうが生産的です。
しかし、公明党や政府の考えは少しでも多くの票を獲得することで、支給対象を増やすことに意味があるようです。財政の選挙用私物化としか言いようがありません。
Next: 物価高の根本原因を無視した痛み軽減策。選挙が終われば…
本質とは異なる一時的な物価高支援
物価高支援策も相変わらず物価抑制ではなく、物価高の痛み軽減策にとどまっています。
経済産業省が今回提示した電気代引き下げ案は、本来再生エネルギー推進のため、再生エネルギーを利用した発電分を電力会社が買い取る際の資金負担を国民に賦課金として課しているもので、いずれはこれを軽減するとしても、今この時期に提示するのは、いかにも選挙狙いの印象を与えます。
低所得世帯への3万円支援は、物価高支援としては良いとしても、物価高を早く収める努力をせずに、対症療法として支給するのでは物価高が続く間、これを続けなければならなくなります。
1回限りのものであれば、年間消費額の1%強の支援に過ぎず、年間4%も上がる物価には太刀打ちできません。日銀と協力して物価高を抑えるのが先決です。
米国型の収支提示を
こうした安易なバラマキを行いやすくしている原因の1つに、日本の予算制度が「単年度主義」を取っていることにあります。1年の予算については歳出と歳入を別々に考え、歳出が110兆円となれば、それに見合うよう、歳入は税収・税外収で賄えない分を国債発行で賄う形になります。
年度途中の追加策についても、今回のような物価高支援策を歳出面でまず決め、最後に補正予算で財源を決める形になっています。この方式は、予算を決めるのに時間がかからず、しかも歳出優先で行われるので、バラマキ志向の強い政権には便利な制度です。
その点、対極にあるのが米国の個別プロジェクト完結型予算です。米国の方式では、歳出の内容のみならず、その歳出を行うのに必要な財源、資金調達も同時に提示する必要があります。このため、ホワイトハウスが大規模な生活支援、インフラ整備案を出しても、その財源が増税や他の歳出カットによるとなると、与野党から反発が出る余地があり、財源の制約から支出規模が縮小させられたり、法案が通らないケースも出てきます。
日本も単年度予算制度をやめ、米国型のこの制度を取り入れることで、財政本来の「所得の再配分」が意識され、無駄な歳出にブレーキをかけることができます。
例えば、今回の児童手当の対象年齢引き上げ、所得制限撤廃案につては、支給対象が増える分財源手当てが必要になります。これまでのやり方では、歳出が膨らむ分、のちに補正予算で別途財源手当てし、大方国債の増発で賄われることになります。
しかし、米国型ではこの対策によって必要な資金がいくらで、その財源をどう調達するか、同時に議論することになります。財源として国民に広く増税で負担してもらえば、児童手当を受ける人も税負担をする分ありがたみが減り、逆に子どものいない世帯は子どもを持つ人々のために税負担が増えることに反発が予想されます。さらに安易に国債で調達となれば、最終的な資金負担は現在の児童や孫世代に課せられます。
児童手当の拡大が児童や孫世代の負担でなされるというのはブラック・ジョークと言わざるを得ません。
歳出と歳入をセットで議論すれば、安易なバラマキをしにくくする制度的ブレーキの役割を果たします。単年度主義予算を突然米国型個別案件処理に変えるのは抵抗があるなら、追加策、補正予算の分をこの個別案件完結型に変える手があります。その方が財政本来の所得再配分機能が意識されやすくなります。
Next: 結局、票集め。解散総選挙の時期をうかがう岸田総理
解散総選挙の時期をうかがう岸田総理
今回この時期のバラマキ・オンパレードは、裏を返せば政府が選挙を意識した票集めの策の色合いが濃いように見えます。
間もなく統一地方選挙が行われますが、もう1つ、岸田総理は密かに解散総選挙のチャンスを探っているように見えます。徴用工問題で韓国が歩み寄り、先のウクライナ電撃訪問、WBCでの侍J優勝でムードが盛り上がり、支持率が上がったこの時期を逃す手はありません。
時間をかければ、いずれ日本にも金融危機の負担が高まり、選挙どころでなくなるリスクもあります。地方選挙と近い難点はありますが、いま国民に補助金、支援金をばらまき、支持率を高めて解散・総選挙、とのシナリオが総理の念頭にありそうです。
国政選挙となれば、国民は改めて「ダメ議員」を追い出すチャンスでもあり、国民は冷静な目が必要となります。
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