現代の環境問題などから、「ファッションビジネスも、利益だけでなく社会的な役割を果たすべきだ」という声があがっています。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、逆風が吹くファッション業界が社会に対してできるのはどのようなことなのか? 実現可能なものについて語っています。
社会的ファッションについて考える
1.ゆっくり作って長く着る「スローファッション」
最近、ファッションビジネス、アパレルビジネスには逆風が吹いています。単純に利益を追求するのではなく、社会的な役割を果たすべきだというものです。
近年、新しいトレンドを素早く商品化し、安く販売するというファストファッションが台頭しています。
しかし、一方で、環境に悪影響を与える生産方法や大量廃棄が問題視されることもあります。
そうしたファストファッションへの対抗策として、スローファッションという概念が生れました。
スローファッションは、短期間に大量生産・大量消費を行うファストファッションの反対語として、2007年にイギリスのサステナブル・ファッションセンターのケイト・フレッチャーが作ったと言われています。
ケイト・フレッチャーは、ファッション界を代表する学者であり、サステナビリティ・コンサルタントでもあります。
スローファッションは、生産者と消費者のそれぞれの視点から定義されます。
生産者側からみれば、スローファッションとは「アパレルのデザイン、製造から消費までを地球に負荷をかけないサステナブルな方法で行い、生産現場で働く人の人権の尊重、正当な報酬を補償すること」となります。
消費者側から見ると、「すぐに飽きる安い商品を次々と購入するのではなく、サステナブルな素材のものやフェアトレードの商品を選び、愛着を持って大切に長く着ること」となります。
スローファッションの定義は良識に基づいたものです。逆に言うとファストファッションの方に多くの問題が存在するということです。
ファストファッションは、ファストフードのように、安い商品を素早く提供します。安い商品を提供するには、大量生産することで原材料費や工賃を低く抑える必要があります。
コストダウンが行き過ぎると、児童労働や奴隷労働などの人権弾圧につながったり、染色工場等で十分な排水処理を行わず、環境破壊を招くこともあります。
大量生産は大量廃棄を生み出します。日本の衣料廃棄物は年間50万トンを超えると推計されています(2020年)。エレン・マッカーサー財団の報告書によれば、2015年の時点では世界全体で、およそ「1 秒ごとにトラック1台分」の衣料品が焼却あるいは埋め立て処分されているとあります。
ファストファッションでは、次から次へと新しいトレンドを打ち出すことで、消費者の欲求を刺激しますが、スローファッションでは、長く着られるべーシックなデザインで、長持ちする素材を使うことが奨励されます。低価格商品は価格を抑えるために、原材料の品質を落としたり、生産現場で働く人の賃金を低く抑えることも少なくありません。そして、低価格の商品ゆえに簡単に廃棄されてしまいます。
工場労働者の人権を守り、適切な賃金を支払って、商品価格が上がったとしても、消費者が長期間使用すれば元は取れます。そして、新興国で働く人々の所得が上がれば、その国の経済も成長します。本来、ビジネスとは生産者も消費者もwin-winであるべきなのです。
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2.作り過ぎず捨てない「サステナブルファッション」
現代のファッションビジネスが抱える環境問題や社会問題には次のようなものがあります。
(1)繊維廃棄物の増加
ファッション産業は毎年、世界中で数百億の衣服を製造し、大量の繊維廃棄物を生み出しています。これらの廃棄物は、土地や海洋の汚染源となり、環境への影響が深刻です。
(2)水資源の枯渇
綿花などの栽培、染色整理工程では大量の水が必要であり、ファッション産業は世界中で大量の水資源を消費しています。
(3)化学物質の使用
化学染料などの化学物質の使用は、環境への影響が大きく、作業員の健康にも影響を及ぼすことがあります。
4)社会的な問題
ファッション産業では、安全で適正な労働条件が確保されていない工場や、児童労働、労働者の搾取などの問題が存在しています。
これらの問題に対処するには、サステナブルな素材の採用、繊維廃棄物の再利用、水資源の適切な管理、化学物質の使用の削減、社会的責任の遵守など、環境と社会に貢献する取り組みを進めなければなりません。
持続可能なファッション産業とは、環境負荷を軽減するために、再利用可能な素材の使用やリサイクルシステムの導入などに取り組むファッションビジネスを指します。また、労働者の権利保護や人権問題にも配慮することも重要です。
サステナブルな素材
サステナブルな素材には、以下のようなものがあります。
(1)オーガニックコットン
有機栽培されたコットンは、化学的な肥料や農薬を使わないで育てられ、環境に優しい素材です。また、耐久性があり、再利用性に優れています。
(2)へンプ
大麻から作られる素材で、丈夫で肌触りがよく、繊維が長いため、織物に向いています。また、再生可能な植物性素材であるため、環境にやさしいといえます。
(3)リサイクルポリエステル
使用済みのペットボトルなどから再生されるポリエステル素材で、石油などの非再生可能な資源を使わないで製造できます。
(4)TENCEL(テンセル)
木材パルプから作られる繊維で、環境に優しく、再生可能な素材です。また、通気性が高く、抗菌性や制菌性に優れているため、衣服に向いています。
(5)バンブー繊維
竹から作られる素材で、天然素材であるため、環境にやさしいです。また、通気性が高く、速乾性に優れているため、夏季に向いています。
(6)レザルック(レザーアルタナティブ)
動物の皮革に代わる素材で、植物や化学合成の素材を使って作られます。環境にやさしい素材であり、動物愛護にも配慮できます。
上記の他に、天然繊維を再生するものとして、再生ウール、再生コットン等もあります。ウール生地、コットン生地を裁断し、繊維に分解してから、再び紡績し、織物や編物に加工するというものです。
リサイクル繊維の問題
但し、リサイクル繊維にも問題はあります。回収、分別、分解等にコストが掛かるため、割高になります。しかも、リサイクルすることで素材の純度は落ち、繊維は短くなるので、素材としての品質が落ちます。つまり、高くて品質の悪い商品になってしまうということです。
安くて良い商品の正反対の商品ですので,コストパフォーマンスを追求したら使えません。商品そのものよりも、社会的意義を優先するという姿勢が必要になります。
リユースや古着もサステナブルな取り組みといえます。リユースや古着を利用することにより、新たな資源の消費や廃棄物の発生を抑えることができ、環境に与える負荷を軽減することができるからです。
また、古着の需要が高まることによって、流行に敏感な若者を中心にサステナブルなファッションに関心を持つ人々が増加し、環境や社会に配慮したファッション産業の発展を促すことも期待できるでしょう。
ただし、古着の需要が高まれば、古着市場の価格が高騰したり、古着輸出に伴う現地での環境問題や労働者の搾取などの問題が発生することも考えられます。
総じていえることは、必要以上の量を生産しないことです。なるべく重要に見合った供給をすることで、環境負荷を減らすことができます。例えば、受注生産を実現すれば、余分な商品を作ることもなくなるでしょう。
委託仕入れの小売店が売り逃しを防ぐために、欠品に対してペナルティを課すという商習慣も改善する必要があります。ペナルティを防ぐために、常に余分な在庫を持たなければならないからです。そう考えると、委託仕入れや消化仕入れという仕組みも、再考すべきでしょう。
小売店が必要量だけを仕入れて、商品を売り切るという姿勢があれば、廃棄も減るからです。
このようにサステナブルなファッションビジネスを実現するには、サプライチェーン全体が短期間で最大の売上を求めずに、長期的な視野に立ち、持続可能な売上を目指すというビジネスモデルの転換が求められるのです。
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ローカルブランドの意義
ローカルファッションはローカルブランドと表裏一体のものであり、ローカルブランドにも、いくつかの意義があります。
(1)ローカルなアイデンティティと誇りの形成
ローカルブランドは、その地域や地域社会に密接に関わっているため、その地域に対するアイデンティティや誇りを形成することができます。地元の人々が誇りを持って着用することで、地域の結束を高めることができます。
(2)地域の名産品の創造
ローカルブランドは、地域の文化や風習を反映したり、その地域でしか手に入らない独自のアイテムを提供することができます。これにより、地元の人々が自分たちの文化や風習に誇りを持つことができます。
(3)地域経済への貢献
ローカルブランドは、その地域の経済に貢献することができます。地元の企業が成功すれば、雇用が増え、地域の経済活動が活発化するため、地域全体が恩恵を受けることができます。
(4)地域に根ざした消費
ローカルブランドは、地元の人々にとって親しみやすく、身近な存在となります。そのため、地元の人々がより熱心に支援し、愛用することができます。
以上のように、ローカルファッション、ローカルブランドの開発は、地域社会への貢献につながります。
編集後記「締めの都々逸」
「顔も見えない 安けりゃいいと 買っても 愛着湧きません」
バブル時代、ファッションビジネスは儲かりました。儲かるからファッションビジネスに入ってくる人も多かった。実際、利益率は高いし、一発当たれば急激に成長できる。ある意味、夢があったんですね。
それがすっかり変わってしまいました。リスクを回避し、堅実なマニュアル経営をしていれば儲かった時代は終わったのです。今後は、本来のファッションの面白さや楽しさを訴求しなければ儲かりません。コモディティとしてのアパレル製品は、グローバルな価格競争に陥っています。
ここらでブランドビジネスの基本、いかに高く売って顧客を満足させるか、に立ち戻る時期だと思います。(坂口昌章)]
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