1923年(大正12年)に東京や関東周辺で未曾有の被害をもたらした、あの「関東大震災」発生から来年の9月1日で100年を迎えます。それに先立ち、今年の9月1日に新刊『巨大地震列島』(ビジネス社)を刊行したのが、メルマガ『地震火山防災を目指す「DuMAの地下天気図」』を発行する「DuMA」のCSO(最高科学責任者)で、9月3日に日テレ『世界一受けたい授業』に登場し話題となった地震予知研究の第一人者、東海大学&静岡県立大学の長尾年恭(ながお・としやす)客員教授です。東日本大震災の余震が続く日本列島周辺で、今後「巨大地震」が発生する可能性について、科学的データにもとづいて分析した長尾先生の新刊『巨大地震列島』の中身を一部ご紹介いたします。
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関東大震災の真実―震源地の謎・2日間で阪神大震災クラスが11個も発生
1923年9月1日11時58分、関東地方を未曾有の地震が襲いました。これが関東大震災です。この地震では火災により10万人を超える方が亡くなりました。そのため「地震だ、すぐ火を消そう」という事が言われるようになったのです。従って火災による被害ばかりがクローズアップされ、それ以外にどのような事が起きていたのかについて、多くの方の知識にはなっていないと推察しています。
関東大震災を引き起こした大正関東地震のマグニチュードは7.9でしたが、この地震は多くの大きな余震を伴ったのです。その事がほとんど忘れさられているのです。さらに本震はほぼ同時刻に2つの地震が重なったものという解析結果も存在します(双子地震)。これは、地震発生直後に首都圏の地震計のかなりの数、記録出来なくなったために、震源地近くで正確な地震計の記録が少ないという事にも起因しています。気象庁の公式記録では、本震発生後の2日間でマグニチュード6.5以上の地震が11個発生していました(編集部註:下図はM6.0以上の地震のため20個)。
短期間で非常に多くの地震が発生していた。DuMA作成
特に本震発生から1時間以内に、相模湾を中心に5つの大きな余震が発生しており、実際にはどの地震が火災の本当の原因であったかは区別できていないのです。
実は、東日本大震災の時にも、筆者の自宅のある浦安市は大きな液状化被害に襲われましたが、この液状化被害も、3.11の本震発生の30分後に銚子沖で発生したマグニチュード7.6の巨大な余震による液状化であった可能性も大きいのです。
関東大震災でも、これだけの数の大きな余震が短時間に発生していたというのは、ほとんど知られていないと推察しています。
また、余談になりますが、鎌倉大仏は関東大震災で、全体が45cmほど前方に滑りました。実はこの事が大仏自体へのダメージを防ぐ効果があったようです。この経験を活かし、昭和35年から行われた改修工事では、台座と仏像の間にステンレス板を敷く構造(いわゆる免震構造、地震発生時に逆に滑りやすくした)に改められました。
さらに関東大震災では、相模湾で大きな津波が発生していました(例えば真鶴で9m、由比ガ浜でも9m、江ノ島で7m、三崎と平塚では6m等)。この事も火災被害ほどには一般に知られていないと考えられます。
重要なのは、関東大震災のような相模トラフの沈み込みに伴って発生する津波は、東日本大震災と異なり、海溝(相模トラフ)が海岸から近いため、第一波は地震発生後、数分で海岸へ到達するのです(ちなみに東日本大震災では20分以上の猶予がありました)。
ここで一つ気がついたのは、相模“トラフ”という名称です。相模“海溝”となっていないため、目の前に日本海溝のような沈み込み帯が存在している事をご存知ない住民の方もいらっしゃるのではないかという事です。トラフも海溝も地球科学的には差は無く、防災知識の啓発にはネーミングというのは重要な役割を果たすのではないでしょうか。
COLUMN リュウグウノツカイは「地震の前兆」か
昔からリュウグウノツカイが網にかかったり打ち上げられると「すわ大地震か」といった報道がなされる事があります。それ以外にも、珍しい深海魚の打ち上げは大地震の前触れではないかという事が言われてきました。古くは1743年(寛保3年)に出版された『諸国里人談』に若狭国の海岸に人魚が現れ、その人魚を殺してしまったら30日後に大地震が起きてひとつの村がまるごと地中に呑み込まれたとの記載が存在します。この人魚の姿が深海魚のリュウグウノツカイを連想させることから 、深海魚と地震とを結びつけた物語の例と考えられています。
深海魚が地震の前に出現するのは、地震直前に海底から出てくるガスや電磁波のようなものを嫌がり、海面近くに逃れてくるのだという説が提唱されています。
もし、このような言い伝えが本当であれば、それは防災情報として役立たせる事ができるかもしれません。そこで東海大学海洋研究所では、織原義明特任准教授が中心となり、学術文献、新聞記事、水族館等の公開情報を調べて、出現日と場所が特定できた情報から、1928年11月~2011年3月に確認された336件の深海魚出現カタログを作成しました。そして、リュウグウノツカイやサケガシラなど地震前兆の深海魚といわれている8 魚種について地震との関連を調べ ました。
判断基準としては、深海魚が確認/捕獲されてから30日以内に、発見場所から半径100キロ以内が震源となったマグニチュード6以上の地震が発生している場合を「関係あり」と判断しました。その結果、2007年7月の新潟中越沖地震以外では、対応する地震が発生していなかったのです。
深海魚出現数はかなり日本海側が卓越していました。それに対し、地震は太平洋側、特に東北地方で多い訳です。さらに地震は季節に関係なく発生しているのですが、深海魚の出現/捕獲は冬に多く、夏に少ないという事もわかりました。
残念ながら今回のこの調査では、「深海魚出現は防災に役立つ情報」という結論にはなりませんでした。しかしながら、この結論は今回の調査結果であり、動物異常行動と地震との研究については、まだ未解明の部分も多く、今後の課題だと考えています。
昭和38年(1963)7月、建設省は建築基準法の改正がなされ、一定の条件を満たせば、高さ100m以上の高層ビルも建築可能となったのです。その第一号が霞が関ビルでした。
高層建築では、地表より大きな揺れとなる事は比較的よく知られるようになったかと思います。また長周期地震動が現代社会では大きな問題となる事もわかっています。
それに対して地下街とか地下鉄はどうなのでしょうか。理論的には地震工学の分野では、地表が存在する事により、地下より揺れの大きさは2倍となるのです。この計算は空間に対してどれくらいの割合が空中か地中かという事が関係しています。横から見た空間の角度は360度です。それに対して平らな地表面は2次元的には180度となります。そのため、360度÷180度=2 となり、地表では地下の2倍の増幅率となるのです。
もし、地下構造が均一であれば、地表は地下の2倍揺れる事になります
次にがけ地形を考えてみます。最も単純ながけ地形は90度で表せます。これは90度 になります。このようながけの増幅度は 360÷90= 4倍となるのです。つまり単純ながけ地形の角では同じ地震でも地下に比べて揺れは4倍になります。同様に山の稜線で地震に遭遇すると、同様の理由で揺れは4倍以上になる事もあるのです。
崖のそばに建つ家や、山の稜線上も地震動の増幅が理論的に大きなものになる
一般に“地下は揺れない”というのは地震学的には正しいのですが、問題は地震による停電や揺れの影響で、防水壁や防水扉が正常に動作するかという問題が残されています。東京も大阪も地下鉄のみならず地下街が非常に発達しています。これらの施設が水没する可能性が存在するという事を我々は考えておかねばなりません。(以上、9月1日発売『巨大地震列島』長尾年恭・著 ビジネス社刊より一部抜粋)
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