58歳の女性から「92歳の母親が車の中で死亡している」という110番通報があったのだが、警察が調べると確かに後部座席には座ったまま死んでいた92歳の母親の遺体があった。すでに死後4日が経っている状態だった。
実はこの58歳の女性は住む家がなく、92歳の母親と27歳の長男と3人で車上生活をしていたのだった。この三世代の一家は住むべき家を失っていた。その車上生活の最中で92歳の母親は寿命が尽きた。
家を失って籠もるように車上生活をする。あるいは、家を捨てて逃げるように車上生活に入る。今、日本の社会の底辺で「誰にも助けを求めずに気が付いたら車上生活に入ってしまった」という人たちが少しずつ増えているというのが分かっている。
道の駅や、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアでは、キャンプ気分で車上泊する人たちとは別に、ひっそりと車上生活をしているのではないかと思われる人や家族がいることを係員が報告している。
あるいは目立たない道路の側道で車を停めて、隠れるように車上生活し続けている人たちもいる。
彼らは様々な事情を抱えて車上生活をしているのだが、その多くは「借金から逃れるための車上生活」だったり、「家賃が払えなくなって家を失って車上生活」だったりする。
通常、そうなった場合は然るべき機関に相談に行って最適な処理をするのが普通なのだが、途方に暮れたまま何もしないで流されるように車上生活に追い込まれる人も存在するのだ。
借金から逃げ、車上生活のあげく癌だった妻を車内で死なせ、保護責任者遺棄致死で逮捕された哀しい事件が1999年にあった。清水久典氏が起こした事件だった。
彼は知人の保証人になって4,000万円の借金を背負い、さらにバブル崩壊で工場の経営も悪化して人生を投げた。彼は自分を慕って離れようとしない11歳年下の妻と共にワゴン車でひたすら日本を回り、9ヶ月に渡って車上生活をしていた。
清水久典氏は車上生活と大腸癌によって急激に弱っていく妻と片時も離れようとせず、最後に車の中で妻を看取る。その経緯と旅路は『死にゆく妻との旅路』という書籍で私たちは読むことができる。
カネもなく未来も失った一組の夫婦が、すぐにやってくる死を予感しながら車上生活を続ける姿は心が張り裂けそうな哀しみに満ちていた。この清水久典氏の哀しい手記は、2011年には映画化もされている。
2018年5月。新宿歌舞伎町のコインロッカーで赤ん坊が捨てられているのが発覚し、防犯カメラの映像からひとりの女性が逮捕されたことがあった。25歳の女性だったが、彼女はネットカフェに寝泊まりする25歳の「漂流女子」だった。
父親は誰だか分からない子供で、彼女はネットカフェの中で赤ん坊を産み落としていた。その赤ん坊を歌舞伎町の中にあるコインロッカーに捨てた。
すでにネットカフェ難民が忘れられて久しい。しかし、彼らは消えたわけではない。東京を代表する歓楽街である歌舞伎町には十数件ものネットカフェが林立しているのだが、どのネットカフェにも、そこに「住み着いている人たち」が大勢いる。
男性だけでなく女性も多い。そのため、女性専用のフロアを用意しているネットカフェも普通になった。
早朝、歌舞伎町をぼんやりと佇んでいると、ネットカフェから出てきてキャリーバッグを2つほど引きずって疲れた足取りで人気のない雑居ビルの入口に座り込み、暗い顔でスマートフォンの画面をのぞき込んでいる若い女性を見ることもある。
彼女たちも住所がない。仕事は日雇いの派遣などが多いのだが、いつも仕事があるわけでもないので資金が乏しくなる。そのためネットカフェに24時間いることもできず、寝る時だけ入って目が覚めたらチェックアウトしている。そしてキャリーバッグを2つほどを転がして、どうしたらいいのか思案しているのである。
こうした女性たちの一部は性風俗の店で働いているのだが、容姿や精神的な理由で性風俗からも弾かれる女性もいる。そんな女性がラブホテルが林立する区域にある大久保公園の周囲に座り込んでいる。
そこまで経済的に追い込まれているのであれば、実家に戻ればいいという人もいるのだが、彼女たちの多くは実家と折り合いが悪くて家を捨てており、帰るべき家も助けてくれる家族もない。
住所を持たず、大都会のどん底を這い回っている。こうした女性を支援する行政の相談窓口もあれば、NPO団体も存在するが、彼女たちがそこに助けを求めることはない。彼女たちは自ら孤立してさまようだけだ。
2019年5月28日。神奈川県の川崎市登戸でひとりの男が小学生の児童や保護者らを次々と刺すという通り魔事件が起きた。この事件の犯人は中年の「引きこもり」だったのだが、日本には推定200万人近い引きこもりがいることが報道された。
この200万人近い引きこもりは親の家や資産で生きているのだが、貧困と格差が広がっていく今の日本では親もまた困窮し始めている。
そこで起きているのが「8050問題」である。80代の親が50代の引きこもりの子供を抱えてどちらも共倒れする。親が子供を殺したり、子供が親を殺したり、親が死んだまま子供が数ヶ月も何もしないで過ごしたり、8050問題から派生する悲惨な事件が次々と起きている。
ところで、この8050問題の行く末に待つものは何か。
引きこもりの子供が親の貯金を食い潰したら、最後に起きるのは「住所の喪失」なのである。親が持ち家でなければ貯金が底をついて年金だけではどうしようもなくなった時、親も子も住所を失う。
行政とうまく連携して生活支援や生活保護が受けられる人もいるのだが、こうした問題を「人に相談するようなものではない」「自業自得」「不徳の致すところ」として一身に抱えて自滅していく
住所がなければ通常の仕事を得るのは難しい。せいぜい日雇い労働くらいしか得られなくなる。その必要最小限の賃金では、そこから這い上がることすらも難しくなってしまう。という。
日雇いは不安定な仕事だ。どんな長期契約でも2ヶ月がせいぜいだ。それ以上雇い続けると社会保険を支払う義務が発生するからだ。実態は2ヶ月も雇ってくれることはなく、せいぜい2週間である。
だから、いったん日雇いにまで落ちると、いくら長期で働きたいと思っても向こうから切り捨てられて、不安定な生活から抜け出せない蟻地獄となる。
決まった住所を持つというのは、社会生活を送る人間として当たり前以前のことであると普通は考える。
しかし、「車上生活」や「漂流女子」や「8050問題」の存在を見ても分かる通り、その当たり前さえ維持できないほど不安定な状況に追い込まれている人が増えているのが今の社会の現状である。
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貼り付け終わり、
*日本の政治家は節穴か、どこを見ているのだ!
まことに深刻な問題です・・・
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