現在は火葬がメインの文化圏であっても、歴史をさかのぼれば人類の歴史の中で亡き者を地中に埋めて弔う土葬はユニバーサルに見られる習俗である。しかし、類人猿から袂を分かった我々の祖先で、誰が最初に土葬の儀式を始めたのだろうか。
この問を解明するのはなかなか難しいのだが、その有力候補として目されているのが謎のヒト属、ホモ・ナレディである。ホモ・ナレディの骨は南アフリカ・ヨハネスブルグのライジングスター洞窟(Rising Star Cave)で多数発見された。洞窟内の部屋にアクセスするには、垂直方向の移動、狭い箇所のすり抜け、ほふく移動など、なかなかの身体運動が要求される。

こうしたことを考慮すると、これほどの多くの個体が偶然にこの洞窟内に集結したとは考えられないという。そして、ならばこの洞窟がホモ・ナレディたちの“宿泊施設”だったのではという発想も、まず排除される。
となれば最も有力な説として浮上してくるのが、ここがホモ・ナレディたちの“集団墓地”であったという仮説なのだ。この墓地説を裏付ける決定的な証拠はまだないため、今後のさらなる調査研究が求められている。
8. “ウォーキング・デッド”は存在する
普通に考えて生と死は明確に異なる状態だ。しかしながらコタール症候群(Cotard’s syndrome)に苛まれている人々にとって、生と死の境界はそれほど明瞭ではない。
コタール症候群とは、自分自身がすでに死んでいると思い込んだり、魂が失われていると感じたり、肉体の一部を欠いているなどの妄想を抱く精神障害で、1882年に神経科医のジュール・コタール博士によってはじめて説明された。この不可解な妄想は、絶望感、健康維持の放棄、そして現実への対処が困難になるなどの症状で現れる。
53歳のフィリピン人女性のケースでは、自分自身の肉体が腐敗した魚のような臭いを発していると思い込んでいて、自分の“仲間”と一緒にいられるようにと遺体安置所に収容されることを望んでいる。
幸いにも抗精神病薬と抗うつ薬の投与による治療で彼女の危機的状態を改善したということだが、ある種の“ウォーキング・デッド”の症状を訴える人が現実に存在しているのだ。
9. 死後に髪や爪は伸びない
死後は新しい細胞を作り出すことができないので、髪の毛や爪は成長しない。
グルコースは細胞分裂を促進するのだが、細胞はグルコースを分解してエネルギーにするために酸素を必要とする。しかし、死によって肉体からグルコースあるいは酸素を摂取する能力が失われるのだ。
また死によって水の吸収もできなくなり、遺体は徐々に脱水症状を引き起こす。死体の皮膚が乾燥するにつれて、爪が指から引き離されて長く見えるようになり、顔の頬がくぼんでアゴに髭が生えたような影を落とすことで、実際には伸びていないのに爪と毛が伸びているように見えるのだ。
埋葬後に検死などのために再び掘り起こされた不運な故人は、特にこの特徴が顕著にあらわれ、まるで“成長”していたように見間違えられる可能性が高いとも言われている。
10. そもそもなぜ死ぬのか
“人生100年時代”といわれ、実際に100歳以上の“センチナリアン”の数も増えている昨今だが、それでも110歳以上生きる人は稀だ。ではそもそも我々はなぜ死ぬのか?

進化論的に言えば、人生の“成功”とは自分の遺伝子を子孫に引き継がせることである。そのため多くの生物は繁殖が終わった後には死期が近くなる。例えばサケは川の上流で繁殖が終われば、海に帰る間もなく死んでしまう。
人間を含むある種の動物はそれとはやや事情が異なり、子育ての期間もその寿命に織り込まれている。子どもが一人前になるまでは生きて育てていかなくてはならないからだ。我が子だけではなく、孫の世話も積極的に行う「おばあさん効果(grandmother effect)」も女性の寿命が長い理由を説明するものとして一部で主張されている。
それでもたいていの人間は100歳を超えれば寿命を迎えるが、進化論的にはそれ以上の寿命が種としての環境への適応面で期待されていないということになる。100歳を超えた肉体で孫やひ孫の面倒を見るような役目はないのだ。それでも遠い将来には、まだまだ人間の寿命が延びる可能性がないとも限らない。その場合は、もちろん“現役期間”も延長するということになるだろう。“人生100年時代”で定年が延びるというのは、進化人類学的にはある意味で自然なことと言えるのかもしれない。
貼り付け終わり、
前編:
“死”にまつわる10の科学的新事実! 死後の意識や蘇生…自分の死を楽しみにしている人は“ネタバレ”注意!
2019.06.03
*多くの人にとって自分の「死」は初めてのことでしょうから、
これを機に色々と考えておきましょう!